召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
撮影所の怪異 (最終幕)
さて、一方の怨霊の方である。生霊の村木が語った後何やら口籠るが、村木に促されてこちらも訥々と語り始めた。
生前、みよと呼ばれたその女性は、幕末の江戸に武士の子として生まれた。そのまま何事もなく成人すれば、どこかの武家に嫁いで多くの子や孫に恵まれた一生を終えたことだろう。だが時代がそれを許さなかった。みよが幼少の頃に、江戸が東京と言う名前の都市になり、将軍様の代わりに天子様がやって来た。そして直ぐに、武士と言う身分そのものがなくなると、多くの武士たちは困窮を極める。みよの生家も例外ではなく、結果としてどこかの武家に嫁ぐことなく、女中として働くことを余儀なくされた。そしてみよが女中として働くことになった所が、
「この撮影所のあった場所に、
そのなんやら言う政治家が
住んでたんやな?」
とかすみが確認のために怨霊に尋ねると、「・・・そうだ」との答えが返って来た。その時神室霊華が何かを思い出したようで、
「確かに、この辺一帯に
その名前の政治家の邸宅があったと
聞いたことがありますね」
と言うのだが、彼女の実家の紀家が少し離れているとはいえ、やはり豪邸を構えていることから、何かしら繋がりと言うか付き合いがあってもおかしくはなかった。そしてみよだが、ここにあった邸宅に住み込みの女中として働くことになったのだが、元から大人しい性格だったためか、他の女中から虐めを受けたりしていたという。だがみよが成長するにつれその美貌が開花し始めると、ある意味当然の成り行きとなるのだが、件の政治家はみよを妾とするようになった。そうなると、主人の愛人と言う立場を得たみよは、他の女中からの虐めにあうことはなくなったのだが、その代わりに今度は正妻からの執拗な虐めにあうことになった。
「ほな、あれやな、その虐めを苦にして
自殺したんか、自分?」
とかすみが尋ねると、果たして――
「そんな、事故死に見せかけて
殺されたっちゅうんか?」
とかすみは目を瞬いて驚きを隠せないが、怨霊となったみよは正妻によって毒殺されたと訴えている。だがどうやってそんなことが出来たのか?
実はみよが毒殺されたと訴えたその理由、それは河豚鍋が関係していた。何か目出度い事があったというので、政治家の家族だけでなく、使用人に至るまで全員で河豚鍋を食べるということになった。ちなみに、かすみの実家がある関西地方では、「てっちり」と言う名で有名である。そしてみよが生きていた明治の中頃は、時の内閣総理大臣であり、みよの主人の同郷の偉人でもある伊藤博文によって河豚鍋が世間に広まったと言われている。そんな河豚料理は、今でこそ専門の知識を持つ板前が、毒を持つ肝臓を取り除きつつ調理をするのだが、当時はそのような知識を持たない料理人もいたようで、そのためか偶々みよと2人の女中が食べた河豚鍋だけに肝臓が入り込んでいたようで、その結果3人は命を落としたという。
「そっか、もし1人やったら怪しまれるけど、
他に2人も食べたとなったら、
そりゃ事故やったで済ませられるわな」
とかすみは腕を組んで難しい顔をしているが、特に当時の高級官僚や政治家に対して、警察の捜査が厳しいかと言うとそれは考え難い所である。しかも維新の功労者と同郷の政治家だと尚更だろう。だがみよは、河豚毒に苦しみながらも、これが正妻の仕業であることを見抜いており直ぐに、
「この恨み忘れぬぞ。お前ら全員殺してやる!」
とそれこそ憤怒の形相で正妻に迫ったという。だがあと少しと言う所で力尽きてしまい、そのまま息を引き取った。そしてその後はと言うと、みよの言葉通り、まずはその家の子供たちを悉く憑り殺したという。その後は自分を虐めた女中たちを憑り殺し、そして自分が死ぬ恐怖を味わって震える正妻と政治家本人を最後は憑り殺して、文字通り一族を消滅させたのだった。
そしてこの事件は、有名政治家の一族が全員謎の不審死を遂げたということで、当時の新聞にて大々的に報じられたという。その後、政治家の親族がこの屋敷を相続するのだが、やはり曰くつきのため、なかなかここに住もうとはしなかった。だが屋敷の広さと都心へのアクセスの良さから、結局ここに住むことを選択したある親族は、それでも心配なのか、霊験あらたかな行者を呼んできて原因と対策を乞うことにした。その結果、みよの件が明らかとなるのだが、その対策として行者は、敷地のある場所に祠を建ててそこにその人物の愛用の品を祀ることを提案した。それがいまM&Mの3人が見ているこの祠である。そして愛用の品が、そこに祀られていた和櫛であった。
「・・・その櫛は・・・みよさんの
・・・お母さんから・・・もらった物
・・・らしいです」
と生霊の村木はそう語るが、そんな村木の傍では怨霊のみよが何やらはにかむ様子が見られた。もしここだけを見ていたら、仲のいい夫婦としか見えないだろう。だがそんな大事な品を、事もあろうに村木青年は捨ててしまったのだった。そこでかすみがその点を突っ込むと
「・・・すいません・・・私も
・・・迂闊でした」
と申し訳なさそうに下を向いて謝罪した。残念ながらその和櫛はいまだに見つかっていないという。
ところで、かすみはこの2人、と言うか2体の霊体がどのようにして結婚するに至ったのかそれが凄く気になってしまい、その点を2人に尋ねた。
「・・・やはり・・・話し相手が・・・できた
・・・ということが・・・大きいです」
と生霊の村木はそう答えるが、怨霊のみよも頷いて同意している。どうやら、1人で彷徨っていたと思ったところに、予期せず同じような霊体が傍にいたこと、しかもお互いに悩みや不満を抱えており、それらを相手に伝えて語り合ううちに心が通じ合ったのか、いつしか離れられなくなったというのだ。
「そっかー、みよさんも、苦労してきたけど、
それを分かってもらえる人に出会ったから
惹かれたんやな?」
とかすみはそう尋ねると、怨霊は黙って頷いた。それでお互いに惹かれあって結婚したのはいいとして、では今回の騒動は一体何が原因なのか、結局そこを知らないと解決できない。そして話を聞いたかすみと神室霊華、そしてラハニは一様に絶句した。
「は、はぁ?ちょちょ、ちょい待ち!
何やねんな、それは!」
とかすみはあまりのことに驚き呆れてしまい、つい声が裏返ってしまった。なぜかすみがこのような状態になったのかと言うと、この騒動の原因が怨霊の嫉妬にあったからだ。そしてその原因を作っていたのが村木本体であり、生霊の村木でもあった。どうやら撮影所にやってくる女優や美人のスタッフを見ると、つい下心ではないが好意を持ってしまうようで、そのような雰囲気とか言動をすると、妻となっているみよは嫉妬にかられるというのだ。そしてその嫉妬の行きつく先は、
「ほいで、彼女たちを亡き者にしようとして、
何か落としたりして殺そうとしたんかいな!?」
とかすみが呆れた表情で指摘するようなことが起きたのだという。
さて、事の真相がはっきりしたところで、では今後の措置をどうするかだが、
「本来やったら、怨霊はちゃっちゃと
成仏させるに限んねんけどなー」
「でもそうすると、残された方の村木さんですか、
少し気の毒に思いますね」
「せやねんな。ラハニさんどう思う?」
「ワタシモ、ユウレイニナッタトキ、
タホマトロドニート、ワカレタクナカッタ」
「ほな、こうしようか?」とかすみはある提案をした。それは
「もう二度と、人を傷つけるような行為を
しないと誓うんやったら、
このままにしておくけどな、もし――」
同じような行為が発生したら、直ちに除霊することを怨霊のみよに伝えた。そして
「まあ、村木本体が女優に惚れたとしてもやな、
そんなん一般のファンはみーんなそやねんからな、
そんなんに一々目くじら立ててたらキリないで、
自分!」
と怨霊に向かって説教を始めた。そしてかすみの言葉を聞いて無罪放免となった怨霊と生霊は、M&Mの3人にお礼を伝えてそのまま去って行った。
「さて、原因は分かったことやし、
一応解決はしたけどなー」
それはあくまでも霊体側の話であり、そもそもの怪異を取り除くということは出来ていない。すると神室霊華が
「師匠、こうしてはどうでしょうか?」
とかすみとラハニに対しある提案をした。かすみは「せやなー、霊華さんのその案で行くのが、一番しっくりくるなー」と言うことで、早速その準備を始めた。と言っても大袈裟なことはせず、神室霊華が手元に和櫛を召喚したに過ぎなかった。そして彼女が提案したこと、それはこの祠を鎮めたことで怪異が取り除かれた、というシナリオであった。確かに、この祠は怨霊たるみよを鎮めるために置かれていた訳であるため、決して嘘や作り事ではない。そうやって和櫛を安置したとき、佐伯えりと雪野愛実がかすみ達の所にやって来た。2人はかすみ達が幽霊を目撃し、それを追跡していたことが分かっていたのだが、直ぐに追っても迷惑になると思い、少し時間をずらして探しに来たという。そこで、かすみが怨霊から聞いた話として、怨霊と化したみよの身の上話を始め、この祠が元々怨霊を鎮めるために設置されていたこと、そして中に安置されている和櫛がその役目を果たしていたことを2人に伝えた。すると、2人とも、みよの身の上に同情したのか、目に涙を溜めてかすみの話を聞きいっていた。そんな2人に対しかすみは、
「今は大丈夫やねんけどな、念のため、
この祠は大事にした方がええで」
と伝えることは忘れなかった。その後、監物監督始めとするスタッフたちもやって来た所で、改めて同じことを伝えた。すると、
「ここに祠があること自体、
全く知りませんでした。
でも、そういうことがあったんですね......」
と感慨深げに呟きながら、それでも何やら次の映画の構想を頭に描いている模様である。
その後、全員で祠に向かって手を合わせた。そしてかすみは
「まあ、これで一応解決したっちゅうことで、
うちらはこれで帰るわな」
と言って神室霊華とラハニを連れてその場を離れて行った。