召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
撮影所の怪異 (後日談)
佐伯えりに呼ばれて訪れたある映画の撮影所にて、そこに現れる怨霊による怪異を無事解決してから数か月後の7月の夏休みに、映画は予定通り公開されることになった。そして今日は、映画の公開に先立って行われる物部かすみが待ちに待った試写会の日である。特にこの日は、関係者を集めた特別試写会が開催されるということで、かすみは弟子の神室霊華とラハニ・カヤンを伴って、都内のある施設にやって来た。そして試写室に入るや早速かすみ達M&Mのメンバーは、佐野プロデューサーと監物監督からの出迎えを受けた。
「物部さん、皆様方のご助力のお陰で、
無事映画の公開を迎えることかできました。
本当にありがとうございました」
と佐野は3人に向かって頭を下げてお礼を述べた。これにはかすみも恐縮してしまうが、それよりも無事に公開されることに対し、早速お祝いの言葉を伝えた。すると彼らの後ろから「かすみさーん」と元気な掛け声が聞こえてきた。そこにはこの映画の主役である雪野愛実が手を振りながらかすみ達の所にやって来る姿が目に留まった。勿論彼女の後から佐伯えりもやって来て「先輩、ご無沙汰してまーす」と軽い挨拶をしてきたりする。そしてお互いに簡単な挨拶を交わしてから、3人は後ろの方の席に着いた。
試写会が行われる場所は、映画配給会社が所有するプライベートシアターのようなところで、そこには既に映画関係者だけでなく、映画のPRをしてもらうマスコミを含めた業界関係者も顔を揃えていた。そしてこの映画のプロデューサーを始め監督と主演俳優が総出で出迎えたM&Mの3人に対し大いに興味がそそられたのだが、特に3人の中で一際その存在感を放つ神室霊華の姿を認めた途端、思わず目をみはったりする。
かすみ達3人がやって来たその少し後に、もう1人の招待者が姿を現した。するとかすみは思わず「あれ、RINAさんか?」と声に出すが、まさにかすみの三番弟子のRINAが試写会に現れたのだ。早速佐野プロデューサー始めとする映画関係者のお偉いさん方がRINAに挨拶をすることに。そのうち、RINAが雪野愛実を見つけると
「あっ、めぐっち、久しぶり!」
と雪野愛実と親し気な挨拶を交わした。雪野愛実も
「RINAちゃん、元気そうだね。
それと今回の楽曲、ありがとうね。
めっちゃ気に入ってるんよ、あの曲」
と嬉しそうにRINAに感想を伝えた。それからRINAは案内されて雪野愛実の隣の席に着こうとしてふと視線を奥に向けたとき、後方の座席にいつもの3人がいることに心底驚いた。そして思わず「えっ、かすみさん達来てたんですか?」と口にした。かすみは手を振りながら頷いた。実はRINAを除く3人の女性達は、今日どこかに向かうことはRINAも知っていた。だがまさか同じ所に来るとは思ってもいなかったようで、少し驚きつつも同じように手を振り返した。そしてRINAの言葉に対し、やはり驚いたのは雪野愛実と佐伯えりであっただろう。まさかRINAがあの3人と接点があるなどと想像できないようなのだが、早速その辺のことを尋ねようとしたとき、試写会の始まりの合図があったため、この件は後回しにした。そしていよいよ、試写会が始まるのだった。
2時間弱の上映が終わったとき、会場からは惜しみない拍手が巻き起こった。エンディングに流れるRINAの曲と、この映画の雰囲気が絶妙にマッチしていることも、この映画の風格をよく表現している。だがこの試写会でただ一人浮かない顔と言うか、ある意味ショックを受けて精神的に落ち込んでいた人物がいた。それはこの映画のモデルとなっている物部かすみである。映画の出来は申し分なく、かすみを演じた雪野愛実の緊迫感を伴う迫真の演技が群を抜いて光っており、そのため彼女が演じたことに対しかすみは大満足である。それでもショックを受けていたのには理由があった。それは
"うちの登場シーンってあんだけなん!?"
と心の中で叫んだように、かすみが落ち込んだのは自分の登場するシーンが僅か数秒ほどであったことにある。実はかすみを始めとしたM&Mの3人は、監物監督から是非にとお願いされてエキストラのように出演していたのだ。ちなみにかすみの役は、養護老人ホームで殺された調理員の同僚役、神室霊華は心霊サークルの顧問の先生、ラハニは心霊サークル部員の留学生と言う役であった。特にかすみと神室霊華は、それぞれ少しだけだがセリフがあったため、かすみはここぞとばかりに日頃の成果を試すべく、演技に熱を入れたのだ。ところがいざ蓋を開けると、かすみのセリフは全カットされていた。一方で、神室霊華はと言うと、セリフのあるシーンは採用されており、しかも全編で1分程の登場となっている。そのため、最後のエンドロールでは、神室霊華だけが「特別出演」と紹介されていた。そしてラハニも、セリフはないものの、その容姿が目立つからか、やはり1分近いシーンに登場していた。なお、かすみの登場シーンだが、これは監督の配慮なのか、かすみが画面いっぱいに大写しで描かれていたのは、せめてもの救いであっただろうか。だが、かすみからすると、実はそれよりも切実な問題がある。それは
"くそっ、玲にこの映画見せられへんがな"
である。と言うのも、何時もの様に自分の演技の凄さを玲に吹聴していたからだ。しかも「うちもな、これで本格的な俳優デビューやな」などと嘯いたりするため、かすみは最神玲から白い目で見られたりした。
ところでこのかすみのシーンだが、実は監物監督は温情からかすみのアップを挿入した訳ではなく、このシーンからある思いが伝わって来たために挿入したのである。一見すると、かすみが単に困ったような感じで被害者に対し同情しているシーンであるが、実はその感情は被害に遭った人たちに対するよりも、その周りのその他大勢が感じていた感情を代弁していた。と言うのは、カットされたその前のシーンでかすみは被害者に対し同情を示していたのだが、一方でその次のターゲットに自分がされるのは御免だという自己防衛も働いており、それをまさにかすみのあのシーンは物語っていたのだ。このシーンを編集中に確認した監物監督は、かすみの表情に思わず唸ってしまったという。そして編集にあたっていたスタッフに対し、「やはり、現場を知っている人が演じると全く違うな―」との感想を漏らしたという。もしこの話をかすみが耳にしたら
「どや、玲。見る人が見ると、
うちの何気ない仕草を
ちゃんと理解してくれるねんで。
これが演技っちゅうもんや!!」
と早速玲に対し演劇論をぶちまけていたかもしれない。だが現実はそのようなこともなく、かすみは肩を落としたまま試写室を後にしたのだった。
そして後日映画の公開となったのだが、なぜかかすみが映画の話を全くしようとしないことに不審を感じた玲は、かすみではなく、神室霊華にその理由を尋ねた。神室霊華は少し言い淀むも、結局は編集の都合でかすみのセリフのあるシーンが全てカットされたことを白状した。それを聞いた玲は、ここぞとばかりにかすみを弄ろうとした、と言うことはなく、その後は何事もなかったようにいつも通りに過ごし、決してこの話題に触れるようなことはしなかった。