召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華、霊障の相談を受ける (第7幕)
晩御飯を終えたところで、最神玲は直ぐにチーターことヴェレニエラに今回の件に関してメールで相談を持ち掛けた。すると直ぐに返信があり、どういう状況なのかを一度確認させてほしいということである。そこで予定を調整して、30分後に玲が現地に迎えに行くことになった。もっともヴェレニエラの住むロンドンは昼間なので、訪問すること自体問題はない。そして時間になったところで、リビングで何時もの様に新喜劇を見て爆笑している物部かすみに用件を伝え、そのままロンドンに転移した。そして数分後、玲はヴェレニエラを伴って別荘に戻って来たのだが、そこにはかすみだけでなく、神室霊華とRINAも顔を揃えていた。特にRINAは、謎のハッカーに興味津々で、どういう人なのかを想像したりして一人楽しんでいたようだ。だがまさか西洋人形のような色白の美人が登場するとは想像の範囲外にあったようで、ヴェレニエラを目の前にして口を開けたまま呆然としていた。
一方のヴェレニエラはと言うと、昨年の夏以来のM&Mの別荘であり、そこには懐かしい2人の姿、かすみと神室霊華を目にしたことで、早速笑みが零れた。そして旧交を温めるように挨拶をしようとしたとき、かすみが早速声をかけてきた。だがヴェレニエラはかすみの言葉を耳にした途端、驚きで目を丸くして立ち尽くしてしまった。と言うのも、かすみは英語ではなくサモナルド語で話しかけたからだ。そして直ぐにヴェレニエラは
「か、かすみさん、ごめんなさい。
余りに凄く上手に話されるので、
少し驚いてしまいました」
とこちらもサモナルド語でかすみに話しかけた。どうやらかすみのサモナルド語がかなり上達しているようで、かすみとしてはこれで少しだけだが安心してロムリアへ訪問出来ると喜んだ。
それから神室霊華とは英語で挨拶を交わした後、神室霊華は隣に佇むRINAを紹介した。ちなみにその時のRINAはと言うと、かすみが謎の言葉で会話をしていたことに驚いただけでなく、目の前のこの女性から感じる高貴さと言うか気品と言うか、何かしら自分とは違うオーラをまとっていることにかなりの戸惑いを感じて圧倒されていた。自分のイメージしたハッカーは、眼鏡をかけたオタクっぽい感じの「男」であったのだが、全くその真逆のタイプの登場は、RINAの混乱に拍車をかけるに十分過ぎたようだ。そのためか、どう挨拶しようか迷っていた所、ヴェレニエラが「RINAさんって、あの動画のRINAさんですか?」と英語で尋ねてきた。実はヴェレニエラは、玲からRINAと言う名のシンガーソングライターが仲間に加わっていることは聞いており、その女性が目の前にいることに大いに興味を持ったのだ。加えて、少し前にある楽曲を収録したミュージックビデオ(MV)が動画投稿サイトにアップされるや、ヴェレニエラはその虜になっていたりする。ちなみに、そのMVは凄い勢いで再生回数を伸ばしており、既に数億回を突破したという。特に今回の楽曲は、全編英語で歌われているため、海外からの反響が凄まじいようだ。そんな曲を作ったRINAにヴェレニエラの2人の娘が夢中なため、是非お会いできればと密かに願っていた。そんなヴェレニエラの希望を知ってか知らすか、神室霊華の通訳を通じて耳にしたRINAは、恥ずかしさからか顔を赤くしてしまう。一方で、そんなRINAに対し、ヴェレニエラは更にあることを尋ねた。それは
「もしかしてRINAさん、あの曲の歌詞と
その題名[Moon Night]から想像するのですが、
玲さんに連れられて月面に行かれたのでは
ないでしょうか?」
とRINAが全く予期せぬ問い掛けであった。それよりもRINAの楽曲の題名が[Moon Night]とある以上、普通は地球から見た夜の月をイメージするのだが、ヴェレニエラは歌詞の意味合いから月面での様子を感じたという。するとかすみが、何やらニヤニヤしながらRINAに耳打ちした。それは
「実はな、ヴェラさんも月に行ったこと
あんねんで!」
と言うことである。だがこの時のRINAは、てっきりかすみの何時もの冗談かと思い「またまた、かすみさん、私を揶揄わないでくださいよー」と頬を少し膨らませながら軽く抗議するが、丁度その時玲が「かすみ、そんな冗談ぽく話したらRINAさん混乱するだろう」と口にしながらかすみの頭に軽く拳骨を落とした。かすみは「もう、玲、何すんねや!」と抗議しようとするが、それよりもRINAは玲の言葉のニュアンスからヴェレニエラが本当に月に行ったのだと理解した。そして
「えっ、じゃ、じゃあ、本当に、本当に、
ヴェレニエラさんも月に行ったこと
あるんですか?」
と尋ねると、「Yes」と笑顔で返事が来た。そこで玲が助け舟を出すのだが
「彼女は召喚術師ではないんだけど、
僕らのことはよく分かっているんだ。
だから昨年の夏に彼女も連れて
月旅行をしたんだよ」
と補足した。RINAは、玲とかすみと神室霊華の3人がヴェレニエラとどのような関係にあるのか気になって色々と尋ねたかったのだが、それよりもヴェレニエラがやって来たのは玲を手伝うためだと理解したため、この件は後日に回すことにした。
一方のヴェレニエラは何やら騒々しい中で挨拶を終えると、玲に連れられて彼の地下工房に向かった。そして玲から早速目的と問題点を説明されたヴェレニエラは、腕組みをして考え始めた。だが直ぐに玲を見つめて
「玲さん、私が思いつく方法としては、
今の所2つですね。1つは入力した波形を
電気的に反転させる方法ですね。
そしてもう1つは、AIを使う方法でしょうか」
と今考えられる方法を伝えた。前者はRINAが言っていたノイズキャンセリング(ノイキャン)で使われる方法である。だがこの方法には一つ問題があり、それは
「どうしても時間的なズレが生じますね。
と言っても実際には1/1000秒ほどの遅れなので、
イヤホンのように耳で聞く場合は
全く気になりません。ただ――」
その遅延分で霊力が残ってしまった場合、再発する危険性が捨てきれない。一方後者のAIを使う方法だが
「こちらも予測した波形と実際の波形のズレが
生じる懸念はありますね。ただし――」
十分な学習を積めば高い精度で先を予測することが可能であり、その問題を限りなく小さくできる可能性はあると指摘した。だがそのためにはAIの学習は不可欠で、そのための教師データは重要になって来る。
「一般的な波形処理で使われるAIであれば
いくらでも調達可能ですが、
それでも僅かに霊力が残ると、
後遺症みたいに残りそうですね」
もしそういった後遺症が無いようにしたければ、やはり十分な教師データを用意してAIを最適化しなくてはならい。ちなみに、ヴェレニエラからすると、最初のノイキャン方式であれば、ちょっとしたデバイスを構築するだけでパソコンを介する必要なく簡単に扱えるものの
「ごめんなさい、玲さん。
私はそちらの方面には全く疎いもので......」
と玲に謝罪するように、彼女の専門外となってしまう。そのため、知り合いを通じて色々と手配したりする必要が出てくるのだが、そうなると何時出来るのかについては全く見通せない。しかもその間にも、神室霊華の元を訪れた患者は、霊障が進行し続ける訳で、何れは全身を覆うことになりかねない。そうなると
"多分皮膚呼吸が出来なくなって、
そのまま死亡するかもな"
と懸念されることが起きるのだ。一方、AIを使う方法であれば、ノイキャンに利用できるAIシステムやアプリは幾つか心当たりがあるということで、結果としてはAI方式で行くことに決まった。玲は
「チーターさん、有難うございます。
僕だけだと、恐らく何も出来ずに
諦めていたと思います」
とヴェレニエラに向かって頭を下げてお礼を伝えた。そんな玲に対しヴェレニエラは
「そんな、玲さん、畏まらないでください。
困っているときはお互い様でしょう?」
と逆に玲を気遣ったりした。それよりもヴェレニエラとしては、なぜここまでして玲がこの問題に真剣に取り組むのかが気になり、その点を尋ねた。すると
「そうですね、チーターさんの仰るように、
別に僕や仲間が危機に陥る訳ではないので、
そこまで真剣にする必要はないんですよね。
ただね――」
やはり心霊現象と言うものへの理解を深めたいという探求心があることと、そして
「仲間の、神室さんから助けを
求められたからかな、
やはり仲間が悩んだり苦しんだりするのを
見過ごすことができないんですよね」
と自分の正直な気持ちをそのまま伝えた。ヴェレニエラからすると、玲は常に冷静であり、そこには何かしらの駆け引きと言うか打算がありそうと思わなくもなかった。だが実際は、目の前で困っている仲間を助けたいという仲間意識が強く、そのためにも常に冷静であり続けようとしているだけなのだと気づき、思わず玲に対する見方を変えるに至った。その後、ヴェレニエラは帰ったらすぐにAIに関するアプリやプログラムを提供することを玲と約束した。そして母屋に戻って、リビングで談笑していたかすみとRINAに対し別れの挨拶をしたところ、かすみが
「ヴェラさん、折角やから、
露天風呂に入っていかへん?」
とヴェレニエラを誘った。自分たちもこの後は露天風呂で一日の疲れを癒してから寝るだけなので、どうせなら大勢で入った方が賑やかで楽しいと思う訳で、そんなことをかすみは口にすると、
「そうですね、ではご一緒させて頂いて
宜しいでしょうか?」
とヴェレニエラはかすみにお願いした。そこで離れに戻っている神室霊華にも声をかけて、全員で夜の露天風呂を楽しむことにした。