召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華、霊障の相談を受ける (第6幕)
雪が残る廃墟と化したラブホテルから全員が別荘に戻るや、女性達は体が冷えていたようで、早速何時もの様に露天風呂に直行した。一方の最神玲はそのまま離れの工房に向かった。そして早速得られた―データを元に、ある物を試作し始めた。とは言え、彼はこれから何かを作るということではなく、その場に既に用意されているある装置とノートパソコンをUSBケーブルで繋いだたげである。それから彼はその場からどこかに転移した。そして直ぐにある物を手にして戻って来た。玲が手にしている物、それは数本の鶏肉の手羽元である。玲はこの手羽元を使って、霊障の再現と除去の実験を行おうというのだ。
早速玲は、その手羽元を召喚した台の上に載せた。それから先程悪霊からデータを取得したときに使用した金属板と同じ素材だが、手に持てるほど小ぶりで少し湾曲したプレートを用意し、ノートパソコンから延びているケーブルに接続した。そしてプレート裏側の持ち手を握り締めてそのプレートを手羽元に近づけた。すると
「おー、なんだろう、
霊障っぽい感じになって来たぞ!」
と興奮しながら独り言を呟くが、台の上の手羽元の表面が最初は赤味を帯びていたのが見る見る爛れてきたのだ。それからすぐにスイッチを切って、今度はその手羽元を別の所に持って行き、早速手羽元から発する霊力を測定することにした。
「あっ、やっぱりそうなんだ......だとすると、
少し調整が必要になるな、うん」
とまたもや独り言を呟く玲だが、どうやら彼が予想したように、僅かだが手羽元から元の悪霊の持つ霊力が検出されたのだ。そして恐らくこれが霊障を引き起こす原因とみていた。そして念のため、悪霊から採取した霊力の波形データと、手羽元から発生する霊力の波形を比較するために色々と調整した。ただし、やはりと言うべきか、後者にはかなりのノイズが含まれているため調整に手こずるが、それでも何とか比較できるように調整できた。そして
「やっぱり、振幅は全然違うけど、
周期性は同じだな。と言うことは......」
うまく振幅を制限出来れば、霊障の元になる霊力を消すことは十分可能とみていた。そこで早速、元の波形を調整し位相を反転させた霊力を作ることにした。とりありえず作成したデータを先程の装置に接続する。そして今度は装置側にデータを送って、装置から位相をずらした霊力を送り出す。そして霊障を帯びた手羽元に対し装置から霊力を送り出すのだが、
「うーん、やはり調整は難しいかなー」
と呟くように、なかなか霊障の進行を止められない。部分的には改善する傾向がみられたが、逆に霊力のパターンが複雑化したのか、より霊障が進行する傾向も見られたため、なかなか一筋縄ではいかないと感じていた。そうするうちにランチタイムを迎えたので、玲は一度母屋に向かった。
「玲、いけそうなんか?」
と物部かすみが昼食の準備をしながら玲に尋ねてきた。そこで玲は、霊力のパターンは把握したものの、いざ実際に試したところで色々と問題が出てきたことを伝えた。するとかすみを手伝っていた神室霊華が
「そうすると、もし確実に消去できなければ、
更に悪化する危険性もある訳ですね」
と心配そうにそう口にするが、玲からすると、とにかくその懸念を払拭しない限り使い物にはならないと考えている。そして早々にランチを切り上げた玲は、そのまま離れの工房に戻って行った
再び工房に戻って来た玲は、早速続きの作業を開始した。この作業は意外に骨が折れるというか、ほぼ手作業での調整を行うため、漸く手羽元から霊障が取り除かれたのは、夕方近くになってからだった。
"これは、マジで大変だぞ!!"
と嘆きたくなるが、次の作業は恐らくもっと困難を極めそうである。それは生体による確認作業である。玲は霊力と生命力は元を辿れば同じだろうと考えているが、何故そう考えるかと言うと、この工房の倉庫内で眠るあの鏡のことがあるからだ。あの鏡から召喚されたというか現れた霊体は自分の生命力を吸い尽くさんばかりの凄まじいエネルギーを持っていた。勿論鏡から召喚された何かは生物ではないため、それの持つエネルギーは生命力とは異なっている。だとすると考えられるのは霊力となるのだが、もしその霊力と生命力が何らかの干渉をするとなると、恐らく霊障から測定されるエネルギーは、複雑な波形を示すに違いないと考えられる。
"本当はそうあって欲しくないんだけどな"
と願わずにはいられないが、そんな楽観的な考えは捨てて覚悟を決めた方がよさそうだとも思ったりする。そして早速生体による実験を始めるのだが、問題は生体をどうするかである。最初は何時もの様にロムリア兵を召喚しようと考えたのだが、よくよく調べると、召喚物には生体エネルギーがそもそも存在せず、その代わりに召喚エネルギーが使われている。勿論、生体エネルギーも召喚エネルギーも元を辿れば同一だろうと思うのだが、実は確たる証拠は存在しない。そのため、再現性を確たるものにするためには、ちゃんとした生体エネルギーを持つ何かを使わないといけない。だが一方で、動物を捕まえて動物実験をする気は全く持っていない。そこまで玲は残酷と言うか冷淡な心は持っていないからだ。そうすると、残された手段はと言うと――
玲は覚悟を決めた。そして先ずはこういう時に一番信頼できるかすみを呼びに行き、工房に彼女を連れてきた。そしてかすみにある指示を伝えるのだが、かすみは一瞬にして険しい表情を浮かべた。
「玲、それは危険とちゃうか?」
「でも、実際に確認しないとダメだからね」
「わかった」とかすみは少し間をおいてから感情を殺してそう口にした。そして玲の指示通りに装置をセットした。玲はその場にベッドを召喚し、左腕を露出させたままベッドに横たわった。そしてかすみはプレートを手にしながらパソコンの画面内のあるスイッチをクリックし、直ぐに彼の左前腕部にプレートを近づけた。すると玲の左前腕部が赤く爛れ始めた。直ぐにかすみはスイッチをオフにし、続けて別のスイッチをクリックしてから、再びプレートを玲の左前腕部に近づけた。その間玲は、最初こそピリッとした痛みがあったものの直ぐに痛みは無くったのでつい安心してしまうのだが、その一方で彼の左腕の爛れは進行中である。そのうち少しずつ痒みが襲ってくるのだが、そこを何とか我慢しながらかすみの測定が終わるのをじっと待った。そして「玲、一応データ取得完了と出たで」と言いながらスイッチをオフにしたところで、玲はかすみにお礼を言ってから、そのまま急ぎ医療カプセルに向かった。かすみはそのまま工房を後にするが、その顔は玲を心配してか少し不安気な表情を漂わせていた。それから30分程すると、玲は医療カプセルから出てきたのだが、彼の左腕は元通りになっている。ちなみにこの時の玲は
"マジで、医療カプセル使えば簡単だよなー"
であった。だが残念ながら、この医療カプセルは異世界のテクノロジーのため、公開することは出来ない。それよりも、かすみが採取したデータを早速チェックすべくパソコンの画面を見つめるのだが、そのうちに玲の表情は険しさが増してくる。そして
「まさか、こんなことになるとは......」
と口にしたものの、その後の言葉が続かない。何が彼をそうさせたのかと言うと、霊障から得られた霊力が全く予想もしないような波形になっていたからだ。振幅は言うに及ばず、周期性すらも元の悪霊の持つ波形とは異なっていたのだ。もっとも玲の場合、膨大な召喚エネルギーがあるためその影響は無視できないものの、それを差し引いてもこのような状態となると
"くそっ、これだと今までの苦労が
水の泡じゃないかよ!!"
と全身から力が抜けてその場にへたり込みながら、ただボヤクしかなかった。まさに、今までの努力が全て無駄に終わってしまったのだ。それでも何とか調整しようと努力するが、やはり完全な再現は不可能であった。そして遂に玲は項垂れて諦めてしまった。そのまま工房で呆然としていた時、母屋から夕飯の準備が出来たとの連絡があったので、玲はとぼとぼと歩いてそのまま母屋に向かった。
「ま、まさか、そんなことあるとはなぁ」
とかすみも玲から話を聞くに従い、驚きと共にやはり憂鬱さが増してくる。とは言え、かすみの場合、悪霊相手に乳首ドリルが出来たため、それなりの成果があったことは言うに及ばない。それよりも、どうやって霊障を取り除くのかだが
「医療カプセルであれば
全て解決するんですよね...」
と神室霊華も真剣な表情のままそう指摘するが、だからと言って簡単に異世界のテクノロジーを披露する訳にはいかないし、そこまでする義理は存在しない。
そんなん感じで暗く沈んでいたダイニングに、自宅から戻って来たRINAが明るい声で「ただいまー」と挨拶をしてきた。だが何やら暗いお通夜のような雰囲気のダイニングを目にして、一体何があったのかをかすみに尋ねた。そこでかすみは、今朝の悪霊の件とその後の玲の調査結果を説明すると、RINAは腕組みをして
「うーん、単に波形を消すだけなら、
ノイキャンイヤホンと同じような
アクティブな方法がありますけどね――」
そんな方法でダメなのかどうかを誰にともなく確認を求めた。すると真っ先に玲が「?」と不思議そうな表情を漂わすので、RINAはノイキャンことノイズキャンセリングの仕組みを簡単に説明した。とは言え、RINAは専門家ではなく、あくまでも音響機器の利用者の立場で説明しているに過ぎないのだが、スタッフの中にそう言うことに詳しい人物が何人かおり、そのお陰で勉強していることを説明した。
「......と言う感じで、要するに
玲さんのその装置が捉えた波形と
真逆の波形を即座に作り出せれば
良いんじゃないかなー、と思うんですよね」
とRINAが説明を終えると、玲は眉間に皺を寄せて何やら真剣に考え始める。だが直ぐに、
「有難う、RINAさん。何か光明が差してきた
感じなんだよね。ただね――」
今のままだとパソコン経由でデータを処理するため、かなりの遅れが出そうだという懸念点を伝えた。ただし、
「まぁ、その点に関しては一つ当てがあるから、
そこに相談してみようと思うんだけどね」
と先程までの暗い表情から漸く何時もの明るい表情になった玲だが、そんな玲の言葉にかすみが直ぐに反応した。
「それって、もしかして、
ヴェラさんに頼むんか?」
とほとんど玲の心の中を読み切った感じでかすみはそう尋ねた。玲はかすみに視線を向けて、大きく頷いた。神室霊華も玲が明るくなってホッとしつつ、黙って2人の様子を見守っている。するとRINAがヴェラとは誰なのかに興味を持ち、早速3人にそのことを尋ねた。
「僕は昔からチーターさんと
呼んでいるんだけどね、昔はゲームかなんかの
チートプログラムっていうやつ、
あれを作ってたらしいんだ。
で今はと言うと――」
凄腕のハッカーとして活躍していることをRINAに伝えた。RINAは目を丸くして、「そんな、ハッカーと玲さんってどうつながるんですか?」と疑問を口にした。そこで詳細は省きつつ、ロムリア創業者のタチアナ・エグリスコバからの紹介だということを伝えると、RINAの目が点になった。そして、「そっか、玲さんとかすみさんって、タチアナさんと親しいんでしたよね」と何やら考えながらそう呟いた。