召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲とタチアナの召喚術談義2
5月下旬にロムリア代表であるタチアナ・エグリスコバが来日した。今回の目的は、彼女が立ち上げたファッションブランド・ロムリアのカジュアルファッションを日本のワールド・クローズの協力の元、日本国内に展開することが目的である。そして、タチアナとワールド・クローズの若林成政が共同記者会見をワールド・クローズ本社で行った。その模様は、夜のビジネスニュースでも取り上げられており、最神玲も物部かすみもその様子をテレビで観ていた。
「タチアナさんって、
今回はこっちに来るんだよね、玲」
「うん、そうだよ。多分明日の夕方には
こっちに転移してくるはずだけどね」
タチアナの来日の真の目的は、実は玲ことカーンフェルトと召喚術に関する議論をすることである。カーンは、降霊転移門を使った召喚術に関して、更に召喚エネルギーの消費を抑える術式を発見したのだ。これを使うと、従来の降霊転移召喚と比べて半分近い召喚エネルギーを節約できる。その結果、タチアナが霊界を経由してサモナルドに転移する場合、かなり余裕を持った転移が可能となる。そこで、この術式の詳細をカーンから取得することがタチアナことセラスティナの最大の来日目的となったのだ。本来タチアナであれば、玲の住む神社にパリの自宅から簡単に転移できるのだが、最近ではその時間すら確保できない位に忙しい日々を送っていた。そこで、来日する機会を狙って、今回の玲とかすみとの会談を実現したのだ。
さて、報道の翌日、この日は平日であるが、玲もかすみもいつも通り神社の仕事をこなし、午後5時を少し回った頃に社務所の戸締りをして自宅に戻ろうした時、境内から「レイ君、カスミさん」と言う声が聞こえて来た。タチアナである。「タチアナさん、お久しぶりです」と玲が挨拶し、かすみも英語で「ご無沙汰してます、タチアナさん」と挨拶をした。そして、三人で玲とかすみの住む住宅にやって来た。
「へー、ここがレイ君とカスミさんの住まいなのね。
和風で素敵な御家ね」
との感想がタチアナからされた。そして各自の部屋を案内してからダイニングテーブルに案内した。今回の夕食は、タチアナからの差し入れではなく、玲とかすみが今朝から用意していた和食中心のメニューとなった。と言っても会席料理のような豪華なものではなく、旬の野菜を取り入れたメニューにした。先ずガラスの小鉢に盛った胡麻豆腐と白い陶器の小鉢に盛った新じゃがの甘辛煮、白い大きめの長皿にはスライスした玉ねぎと大葉をたっぷり盛りつけた今が旬の鰹のたたきを載せ、白く丸い大皿には海老と今が旬のグリーンアスパラの塩炒めものが盛りつけられ、後はご飯に豆腐とわかめのお吸い物といったメニューになった。ちなみに、玲とかすみには、玲の最新調理家電があるため、煮物や炒め物は大概問題なくできてしまう。そして勿論、アルコールは日本酒。フランス料理や会席料理のような豪華さや華やかさには程遠いが、玲とかすみの心の籠ったもてなしに、タチアナは大いなる感動を受けたようだ。
「レイ君、カスミさん、
私もね、何時も日本に来ると会席料理とかの
豪華な食事を接待されるんだけどね、
本当は日本に来たらこういう家庭料理を
食べてみたかったのよ。
だから、凄く嬉しかった。
ましてや、あなた達の手料理だと格別だしね」
と言って大いに喜んだ。
さて食事を楽しんだ後、暫しお互いの近況報告をしてから、いよいよ本題に移った。
「タチアナさん、早速新しい術式を試してみますか?」
と玲に問われたタチアナは、普段使われていない真ん中の部屋に移って、早速玲からその術式を教わり、「召喚」と叫んだのである。するとそこには降霊転移門が出現したのであるが、
「おー、何か楽に召喚出来るわよ、レイ君」
とタチアナが驚きの余り声を挙げてそう答えた。
「実は、もう少し召喚エネルギーを
抑える方法も見つかりそうなんですがね」
と玲はサラッとそんなことをタチアナに話すのであるが
「え、うそ、まだ少なくなるの?」
と驚いた表情になった。かすみも、例の翻訳イヤホンから二人の会話を聞いていたのだが、
「え、そんなにビックリされる位に
凄いことなんですか?」
と逆にタチアナに問いかけたのである。すると、
「カスミさん、凄いなんてものじゃないわよ。
これ、革命的と言うべきかもしれないわね」
と言うのは、一般に契約・創成召喚は召喚時よりも召喚対象を維持することに召喚エネルギー消費する一方、降霊召喚は召喚門の設置でエネルギーを消費する。これは転移も同様。しかし玲ことカーンが取り組んでいる降霊転移門を応用した召喚術は、契約・創成召喚も降霊召喚と同じ召喚門の設置だけに召喚エネルギーを多く消費し、召喚対象の維持には殆ど召喚エネルギーを消費しないのである。そして、召喚門の設置で召喚エネルギーが少なくて済むとなると、僅かな召喚エネルギーで何でも自由に召喚して長時間維持し続けることが可能になるのだ。
今ひとつピンとこないかすみを他所に、一人大いに興奮するタチアナであるが、ふと我に返って玲とかすみに
「あ、そうそう、あなた達へのお土産忘れてたわ、
ゴメンね」
など言って、どこかへ転移したかと思うと、直ぐに戻って来た。これは?
「あなた達のM Mの夏用衣装よ。
気に入ってもらえれば嬉しいけどね」
と言って差し出されたのが、かすみの方は、上は白の七分袖のサマージャケットに下は白の膝上丈のショートパンツ、そしてインナーはロムリアのロゴが入った黒のTシャツが数枚。一方の玲の方は、かすみと同じで上は白の七分袖のサマージャケットに下は白の七分丈パンツ、インナーはかすみとはデザインが異なるが同じロムリアのロゴが入った黒のTシャツが数枚。それと、各自のジャケットの胸ポケットには、M Mのロゴが刺繍されていた。
「タチアナさん、何時も有難うございます」
と二人はタチアナにお礼を述べたのであった。
一方、毎回タチアナから一方的にお土産を貰ってばかりの玲とかすみであるが、ではセレブな彼女に何が相応しいのか考えても何も思い浮かばない。そんなことを毎日玲とかすみは思案していたのだが、玲はタチアナとしてではなく、セラスティナとしてのお土産はどうかと提案したのだ。その土産とは、召喚術式。
「タチアナさん、何時も貰ってばかりで
申し訳なかったので、
今回は僕とかすみからのプレゼントとして、
この術式を差し上げますが、如何でしょうか?
あ、ちなみに、かすみには内容を
セレクトしてもらいました」
と言って示したのが、玲とかすみが最近ちょくちょく乗っている例の自動運転対応の魔改造車。かすみが言うところの通称「ト〇ロの猫バス」ではないが、自律走行と言うよりも、既に自我を持つに至る改造車である。しかも降霊転移召喚を使っているので、召喚後は全く召喚エネルギーを使用しない優れもの。ちなみに、車の場合はガソリンなり軽油なりが必要となるが、召喚した車に対し通常の燃料を補給する事は出来なくないが危険を伴う。と言うのは、召喚解除すると、後にはそこら中に飛び散った燃料だけが残されてしまうからである。ところが、玲の魔改造車は、燃料を含めて召喚術式に記述されている。そこまでの細かな術式を自由に操れるのが玲ことカーンフェルトのお家芸なのだった。
「一応、僕としては、タチアナさんが無事サモナルドに
帰還できた時に使ってもらえればと思って
選んだんですが、勿論、
こちらで使ってもらっても構いません。
ただ、何分こんな小さな車なんで、
タチアナさんに相応しいとは思えませんが、
もし何か気に入った車があれば、
それように術式を変えることは簡単なんで、
何時でも仰ってください。
あるいは、ご自分で好きにカスタマイズしたい
場合はですね、ここの部分をこう変えて…」
と丁寧に説明しだす玲である。「一層の事、マニュアルを用意したら、玲」とはかすみの意見である。と言うことで後日簡易的なマニュアルをメールで送ることにした。ちなみに、玲のこの魔改造車の術式は、車以外にも応用が可能である。実はタチアナも自身で身の回りの品々を自律型で構成できないか研究しているのであるが、思い通りにいかなかったり、あるいは長時間継続使用できなかったりと色々と問題を抱えていた。ところが、玲ことカーンは、バレル型の降霊転移門を応用して完全な自律型の創成物を作成するノウハウを蓄えていたので、これには流石のタチアナではなく、セラスティナも驚かずにはいられなかった。何れにしても、彼女にとっては何よりのプレゼントになった。
さて、玲とタチアナの召喚術談義が終わって、次はM Mが請け負った様々な心霊現象について話をした。特にかすみは、自分がつい先日扱った呪いのビデオの話をした。ちなみに、親友の渡辺翼から送られてきたオリジナルの動画はまだかすみのLINEに残っているので、それをその場で再生することにした。すると、
「なるほどね、確かにこれって召喚術よね。
それで、こんなのが召喚されるんだ」
と言ったタチアナの直ぐ隣に、召喚された霊体が揺蕩っていた。普通は、霊が現れるとビックリして腰を抜かすだろうが、この3人に関しては、「あー、出たね」程度の事なのである。まあ、何か悪さしてきたら降霊召喚で「お見送り」すれば済むからね、とはかすみの談。ところで、タチアナが気になったのは、この召喚術の言葉と言うか様式。どうも昔耳にしたことがあると言い出すのだ。
「ということは、タチアナさんの居た時代よりも
はるか昔に存在した術式
ということなんでしょうか?」
と玲はタチアナに問いかけた。
「所々聞き取れないところもあるけど、
術式を唱えるテンポとかはね、
何と言うか私の居た時代の童謡というか
そんな感じにも聞こえるのよね」
となると、やはりサモナルドに起源を有する古い召喚術がベースになっているとみて良さそうだ。そうなると、
「一体誰がこんなこをしてるのか、ですよね」
とかすみが呟いた。そう、まさにそこが問題である。しかもタチアナことセラスティナの時代よりも古い時代のサモナルド人がこの心霊現象に関わっているとなると、どうしてもあの問題が関係しそうな気さえ思えてくるのは、玲の想像し過ぎだろうか。とりあえずは、召喚術式だろうということは分かったので、今後はもう少し注意してこの問題に取り組む必要が出ることを、玲とかすみは肝に銘じた。
「タチアナさん、有難うございました。
私の方は、この問題がずっと引っかかていたんで、
少しだけですが、解決のヒントが得られたのは
大きな進展と思ってます」
とかすみはタチアナに説明した。
「ただね、カスミさん、余り深入りしたらダメよ。
これは私の経験に基づく警告です。
何となくだけど、レイ君のあの召喚門、
あれと関係しそうな気がするのよね。
だから、この調査は特に注意して行ってね」
とタチアナからの言葉である。玲も全く同意見であった。まあかすみは、こと召喚術に関しては玲の言うことを素直に聞いてくれるので、その点は安心できるのであるが。
この後は、三人で雑談したりして過ごし、夜11時を過ぎた頃になって、
「レイ君、カスミさん、今夜は楽しかったわ。
特に、あなた達が用意した食事、
とっても美味しかった。
それとこの召喚術式ね、早速使わせてもらうわね。
じゃあ、お休み」
と言ってタチアナは宿泊するホテルに戻って行った。