召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル2: 根元明菜のケース (中編)
最神玲がから除霊を断る電話を貰ってから2週間後、事態は急変した。根元明菜の夫が入院先の病院で亡くなったという。死因は栄養失調による餓死とのこと。大の大人が餓死するとは、異常な状況であることは間違いないのだが。そして、夫の死亡の知らせは、根元明菜が態々美土路神社の社務所に出向いて、玲とかすみに直接伝えたことで分かったのだ。その時の根元明菜の眼は、あまりに激しく泣いたせいなのか、瞼は腫れ、目は赤く充血していた。だが彼女の眼光は、憎しみに満ちていた。その憎しみは、自分に取り憑いている今は無き夫と前妻の子供に対するものなのか、助けて欲しい時に誰も助けてくれないことへの世間に対するものなのか、それとも助けをお願いした玲に対するものなのか、果たして誰に向けられたものであろうか。
「最神さん、物部さん、
もし私にまだ玲が取り憑いているのであれば、
このお金で除霊をお願いします」
と言って、カバンの中から10万円の入った封筒を取り出して、玲に渡した。今は午後の4時。後1時間で神社業務は終了するが、特にこの時間に忙しくなるという経験は今まで無かったので、かすみと相談して業務を終了することに決めた。降霊召喚する場所については、根元明菜の自宅で行うことにした。玲とかすみは片付け等があるため、自宅場所を聞いて後で向かうと告げて、根元明菜とはその場で別れた。
玲とかすみは、一旦自宅に戻って降霊召喚の準備をし(と言っても、例の制服に着替えただけだが)、根元明菜が住むマンション近くの公園の植え込み内にあった空間にピンポイントで転移した。が、後数秒遅かったら、ボールを探しに来た子供に見つかるところであった。『危なかった』とは玲とかすみの呟きである。さて、件のマンションは、10階建ての総戸数40戸程の小規模なマンションであり、その5階に根元明菜は住んでいる。オートロック式玄関のため、501を押して呼び出すとドアが開けられたのでそのままエレベーターで5階に向かう。すると501号室の前で根元明菜が待っていたので、そのまま部屋に上がることにした。部屋の間取りは1LKという所で、玄関近くに寝室、そして玄関から伸びる廊下の奥にリビングとカウンターキッチンがあった。早速リビングで降霊召喚を行うのだが、リビングの一角に、亡き夫と子供の遺影が飾られていたので、玲とかすみは、まずその遺影に手を合わせた。そして、その遺影が飾れている祭壇の直ぐ上の壁に窓がある。恐らくこの窓から子供が転落したのであろう。だが子供の手が届く高さではないので、何かしら下に台があったのか、あるいは…と勘繰っても今は関係ないと思う玲であった。
「では、これから降霊術を始めます。
まず、根元さんに取り憑いている
霊の目的を知る必要があるので、
根元さん、この場所に座って頂けますか?」
と言ってリビングの空きスペースを指さす玲である。そしてかすみに、「召喚の準備お願いね」と伝えてかすみが降霊召喚門を召喚する。「召喚!」の呟きと共に根元明菜の周囲にアニュラス型の召喚門が展開された。そのとき、根元明菜に取り憑いていた霊体が一瞬ぴくっと動くのを玲は目にしたが、そのまま根元明菜に対し対話を進めることにした。
「あなたは誰ですか?」
「・・・・・・」
あ、そうか、子供相手だから、少し対応を変えないと、と思い直す玲である。そして、
「すばる君。おはなしできる?」
うん、と声には出さないが、代わりに根元明菜の頭を縦に振って合図する。
「すばる君。どうしてそこにいるの?さびしいのかな」
「ま、ま、に、あ、い、た、い」
なるほど、そう言うことか、と納得する玲である。その後幾つか質問をして得た結論は、根元明菜の夫の連れ子である昴は、本当の母親に会いたいために、彼らに取り憑いて連れて行ってもらおうとしていたのであった。かすみに一旦召喚門の解除をお願いしてから、根元明菜に事の真相を伝える玲である。根元明菜は降霊召喚中に自分の中に継子の昴が入り込んできたことに嫌悪感を抱いたものの、昴自身に根元明菜に対する憎しみが無いことを感じ取ったことで、今はかなり落ち着きを取り戻していた。そのためか、夕方に玲とかすみと会った時に宿していた憎しみの籠る眼は、今はすっかり消えて無くなっていた。さて、そうすると、昴を本当の母親と対面させる必要が出てくるのであるが、この点については、根元明菜も全く消息は分からないという。ただし、ここは玲もかすみも降霊召喚術を生業にしているだけあり、直ちに根元明菜の夫であり昴の父親である根元達也の霊を召喚することにした。今度は玲が行おうとしたが、かすみが「またやらせて」と言うので、彼女に任せることにした。そして「召喚」と呟いて、アニュラス型召喚門の真ん中に置かれた根元達也の遺骨の上空に達也の霊体が出現した。念のため本人かどうか確認してもらうために、根元明菜に霊視グラスを渡して見てらもうことにした。すると、
「えー、た、た、た、達也?達也!」
との悲鳴なのか単なる動揺なのか分からない声を発っした。だがどうやら、本人の霊であることは間違いないようだ。と言うことで、ここからは玲の仕事となる。
「達也さん、息子の昴君の母親、
あなたの前の奥さんについて教えてください。
いいですか?」
「・・・は、い」
「昴君の母親の名前を教えてください」
「・・・た、け、だ、み、よ」
「[たけだみよ]さんですね。
どこに住んでいるか分かりますか?」
「・・・わ、か、ら、な、い」
「ご実家がどこか分かりますか?」
「・・・と、み、お、か、ま、ち、ま、き、た」
富岡町と言えば、米野市を挟んで差間見町とは反対方向にあったような、「まきた」は真北なのか、地名なのか、そこが分からないな、と玲の横で呟くかすみである。
「富岡町はここと同じ県ですね」
「・・・は、い」
とりあえず、必要な情報は入手できたので、かすみに召喚解除をお願いして、玲は再び根元明菜と対面する。
「これからやることは、まず昴君の母親である
[たけだみよ]さんを探します。
そして、[たけだ]さんを説得して
昴君の霊を霊界に送るようにします。
そうなれば、これで除霊は完了となります」
有難うございます、宜しくお願いします、と根元明菜は玲の手を握ってお願いした。その後、根元明菜の自宅を出た玲とかすみは、自分達の家に転移していった。
「ねえ、玲、今回は少しきついね。
私達、このままやって行けるのかな?」
とリビングのソファに腰掛けながら不安を吐露するかすみである。確かに、自分たちの想定外の事態が続くことには玲も不安を感じている。
「まあ、やる以上は最善を尽くすしかないね。
とりあえず、昴君の母親の消息を探らないと」
手掛かりは、[たけだみよ]の実家が富岡町にあること、そこの真北なのか地名の「まきた」があるのか、まずはこの点を確認することにした。玲は自分のスマホの地図アプリを使って、かすみと一緒に確認することにした。すると
「どうやら、槙田という地名があるけどそこかな?」
と地図を確認するかすみであるが、同時に玲もかすみも懸念することが発生した。槙田という所は、ほぼ田園しかなく、人家はぽつぽつと点在しているのみである。ここを一軒一軒虱潰しに調べるのはかなり骨が折れるというか、物理的に骨が折れるのでは?と懸念を抱く玲である。
「ねえ、どうする玲、結構広いよ、ここ。
チャリで移動するにもかなり大変だね」
しかも梅雨の真っ最中なので、天気に恵まれるかどうかも懸念されるのだが。
「まあ、移動に関しては何とかするよ」
えー、何か新しい乗り物とか召喚できるの?ねー、見せて、見せて、とせがむかすみであるが、当日のお楽しみ、と言ってお茶を濁す玲である。
「じゃあ、探索は今度の週末でいいね?」
と確認して、この件はここまでとした。後は、各々好きなことをして過ごして一日を終えた。