召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル2: 根元明菜のケース (後編)
最神玲と物部かすみが自由に行動できる週末の土曜日。早速二人は富岡町の槙田地区へ転移した。ここは辺り一面全て田んぼ、田んぼ、偶に民家と言うくらいに田んぼが広がる世界である。そのため彼らの転移先に相応しい場所がなかなか見つからず、結局槙田地区の外れにある神社の本殿裏手に転移することにした。ただ、ここからの移動は結構大変なため、かすみは「チャリ移動やったら絶対無理だぞ」と玲を脅すのだ。尤も玲もチャリでの移動は考えておらず、神社の境内を出たところで「召喚」と呟いて召喚したのが事故前の最神玲がよく乗っていた250ccのオフロードバイク。
「え、玲、あんたバイク乗れるの?」
まあ、しっかり更新済みの免許は持ってるし、序にヘルメットを二人分召喚しているから乗れるよ、と答えたが、かすみの質問の意図とはかなりずれている。要するに、最神玲ではなく、その中身のカーンフェルトがバイクに乗れるのかどうか、と言うことであった。かすみの質問の意図を漸く理解した玲は、
「あー、そっちね、うん、
練習して乗れるようになったんだ」
実は玲ことカーンは、市で下宿していたアパートの駐輪場に放置されていた最神玲のオフロードバイクを召喚の書に記入し、その後動かなくなっていた本体は専門の買い取り業者に買い取ってもらった。そして、空いた時間に東洛市郊外を流れる中川の人目のつかない河川敷でバイクの運転を練習していたのだ。
「えー、ほんまなん?ちょっとそこで乗ってみてよ。
でないと、危なくて安心でけへんから」
とかすみに疑われるので、玲はフルフェイスのヘルメットを被って、バイクに跨りエンジンを掛けた。アクセルを吹かすとブローンという排気音が発生し、ギアを1速に入れて少しずつクラッチレバーを離しながら同時に右手で握ったアクセルグリップを回していくと、徐々にバイクが進みだした。やがて、通常の速度でバイクがかすみの目の前を行ったり来たりする。これを見たかすみは、漸く安心したのか
「ほー、玲君、何か凄く進歩しているね、感心、感心」
となぜか上から目線で玲を褒めるのであった。
それから、玲とかすみはバイクに乗って、[たけだみよ]の実家を探した。ところが、思いの外簡単に見つけることが出来た。と言うのも、この地域の田植えや稲刈りは、各農家が協力して行う習慣があり、そのお陰で[たけだ]=武田家がどこにあるのか直ぐに分かったのだ。これは幸先良いぞと玲とかすみは期待するのだが。
「帰ってください。もう私には何も関わりないんで」
ピシャっと引き戸が閉じられた。文字通りの門前払いであった。一体何があったのか?その家、武田家は槙田地区の北側に位置する中堅農家である。玲とかすみがその家にやって来て玄関で来意を告げると、年の頃は50代の女性が姿を現した。美代の母親である。そこで、かすみが訪問の意図を告げて、美代がどちらに住んでいるか教えて欲しいとお願いしたところ、実は実家に戻って来ているという。そこで美代に代わってもらい、再び訪問の意図を伝えたのであるが、本題に入る前に門前払いを食らってしまったのであった。まさに、相手の付け入る隙なくである。仕方なく、玲は玄関の扉越しに、元のご主人である達也氏が最近亡くなられたこと、そして美代の実の息子である昴もマンションの窓から転落して亡くなったことを伝え、その昴の魂があなたにどうしても会いたいと訴えていることを切々と語った。すると、ガラッと引き戸が開けられて、美代がいきなり玲の胸倉を掴んできた。そして
「ねえ、今、何て言ったの?
昴が亡くなったって、本当なの?ねえ、ねえ」
と叫んでそのまま両手を地面につけて泣き崩れてしまった。そこで玲は、美代に手を添えて立たせて、玄関の上がりに座らせることにした。その時には、先程対応した美代の母親も心配になって美代の後ろに現れた。そこで、かすみが先程の話をもう一度二人に説明し、昴の魂を無事に霊界に送り届けるには美代の協力が必要であることを訴えた。そして漸く事態を飲み込んだ美代は、昴の霊に会えるのであれば、ということでなんとか協力を取り付けることが出来た。ただし、実はもう二つ程厄介な問題が残っていた。一つは、美代から夫の達也を奪った女性、根元明菜との対面である。本音としては憎き不倫相手に会うなんてと思うのだが、それ以上に亡き息子の霊に会いたい気持ちが勝って、この問題もどうにかクリアされたのである。ただし、この家での対面を希望したのであるが、それは問題ないと玲は告げた。そして残る一つはと言うと、誰がどうやってここに根元明菜を連れてくるのか、である。まさか転移させる訳には行かないので、玲とかすみが連れてくるしかないのであるが、取りあえず夕方頃にこちらに連れてきますと言い置いて一旦武田邸を辞去した。そしてバイクで少し北の方に走ったところで雑木林が見えたので、そこから転移で自宅に戻った。
「ねえ、玲、どうやって美代さんの所に行くの?」
「ん、それは、かすみが運転していくんだけど」
はー?そんなん聞いてないし、と怒り出すかすみである。まあ、聞いてないのは確かだが、話の流れからして運転できるのはかすみになるだろうというのは、自然なことだと玲は思うのだが、かすみは納得できない模様。そこで、
「仕方がない、ちょっと秘密道具を出すか、
驚くなよ、かすみ」
とドラ〇もんみたいにズボンのポケットに手を突っ込むも何も出さない玲である。ちょっと期待したかすみは、拍子抜けし、玲に何時もの突っ込みをお見舞いした。
「痛いな、かすみ、何するんだよ」
「私に変な期待させたことへの突っ込みだ、
文句あるんか?」
と凄むかすみである。まあ、これは玲の冗談なので突っ込まれたのは自業自得だが、実は本当に秘密道具があったのだ。
「かすみ、駐車場に行くか」
「えっ、うちら車持ってないけど。
まさか、それも召喚して出すの?」
とは当然の疑問を持つかすみである。とりあえず、二人で神社の駐車場に向かうことにした。ちなみに、神社の鳥居に続く道路は、その左右に枝分かれする道がなく、文字通り神社で行き止まりとなる。そのため、神社に用事がなければ、この道と駐車場を利用する人はいない。
「さて、ちょっと待っててね」
と言って玲は1台の何の変哲もない小型車を召喚した。
「ねえ、これって普通の車よね。
まさか、これを私に運転させようというの?
絶対嫌だからね」
「まあ、乗ってみて」
と言われて、玲は助手席に、かすみはなぜか運転席に座らされた。
「あ、玲、お前、騙したな」
とまた怒り出すかすみであったが、そんなかすみをスルーして、
「さて、かすみ、エンジン掛けて。
そうそう、そして、
ナビの目的地をちょっとそこら辺にセットして。
OK。じゃあ、お願いね」
と声を掛けた玲である。ただし、それはかすみに向かってではなく、なぜか天井に向けて。すると、
「了解です」
とどこからか女性の声が聞こえて来た。流石のかすみも、どこかに霊がいるのかとキョロキョロするも何も見えず、そのうち得体の知れない何かに怯えだす。すると、車は勝手に動き出したのである。
「えー、えー、えー、れ、玲、な、な、何で、
か、か、勝手に動き出すのよ」
そんなかすみの動揺も無視して、玲は車が走る様子を確認した。やがて、目的地に到着したところで、かすみに種を明かしたのである。
「実はね、召喚の術式に自我を持たせて
召喚させたんだよ。
そうすると、こんな風に自分で移動してくれる、
ということ。
ちなみにこのアイデアは、
以前卒論の現地調査でかすみが運転した時、
後で自動運転とか無いんか、
て切れてたじゃない。あそこから思いついたんだ」
「すると、何か、玲。この車は自我があって、
こちらが希望するところへ
勝手に連れてってくれるということなの?」
何かそれって、隣のト〇ロに出てくる猫バスじゃね、となぜか目を輝かせるかすみ。ちなみに、玲はト〇ロも猫バスも知らないのだが。
「ただね、一応誰かがハンドルを握った状態でないと
動かない様にはしているから、宜しくね」
えー、それだったら、玲でも良いんじゃね、とかすみは主張するのだが、先程バイクを運転して疲れたから、後は宜しくと言うことだった。まあ、自分が運転する訳ではないので良いか、と妥協するかすみであった。
「じゃあ、このまま直接行く、玲?」
そうだね、と言って、玲はスマホを取り出して、根元明菜に電話を掛けた。そして、武田美代のところで除霊する旨を伝えた。暫し沈黙があったが、やがて声を絞り出すように、「分かりました」と告げた。
今、後部座席に根元明菜を乗せて、玲達は一路富岡町槙田地区の武田家へ向かっている。車内はずっと沈黙が続いていたが、ナビから「目的地周辺です」という音声が流れて(実際は車がそうしゃべっているだけなのだが)、いよいよ根元明菜は緊張の色を濃くする。玲もかすみもまだ分からない歳であるが、普通は離婚させられた女性が離婚させた張本人と会うのは、弁護士が同伴していない限り修羅場になることを十分に考慮すべきであった。だが、武田家に到着して、玲、かすみ、根元明菜の三人が10畳程の広さの和室に通されたときには、彼女たちの間に殺伐とした雰囲気はなかった。そして、これから玲は降霊召喚の準備を進めるのである。
「武田さんとお母さん、
この眼鏡をかけてみてください」
と言って霊視グラスを二人に渡してかけてもらった。すると
「!!」
「あ、あの女の肩の所にいるのが孫の昴なの?」
はい、そうです、と答える玲である。そして、根元明菜を部屋の真ん中に座らせて、降霊召喚門を設置し、「召喚」と呟いた。すると
「・・・ま、ま。ま、ま」
と泣き叫ぶような声を昴の霊が発っしたかと思うと、根元明菜から離れて母親の方に駆け寄って来た。そして、昴のその動きに呼応して武田美代も
「す、すばる。あー、ごめんね、
ママがあなたを引き取っていたら、
こんなことにならなかったのにね、
本当にごめんね」
と涙を流しながら昴の霊体に抱き着いた。ただ残念ながら、霊体に抱き着くことは出来ないため、自分の腕で自分を抱きしめる格好になるのだが、当人にはしっかりと昴を抱いた感触があったようだ。そして、美代の母であり昴の祖母も、彼女達と一緒に抱き合って涙を流した。
さて、根元明菜から昴の霊体が離れたのを見届けた玲は、武田美代に向かって、
「これからお子さんの昴君を
成仏させますが宜しいですか?」
と尋ねた。勿論、成仏させる訳ではないのだが、ここ日本では成仏と言う言葉が結構有効に作用することが分かって来た玲ことカーンであったので、この言葉で相手に伝えることにした。
「は、はい、宜しくお願いします」
玲は術式を変更して、「召喚」と発した。そして、昴の霊体は霊界に旅立って行った。
無事に昴の霊を霊界に送り届けたことで、根元明菜は本当の意味で憑き物が落ちたように晴れやかな表情になった。そして、武田親子も息子と孫に最後の別れが出来たことに、安堵の表情をするのである。そして、武田家を出ようとした時、根元明菜は武田美代に土下座して御免なさいと謝罪した。何を謝罪したのか?その後帰りの車中で驚くべきことを根元明菜は玲とかすみに語ったのである。
「実は、私があの子を殺したんです」
え、嘘、冗談だよね、と運転している(ふりをする)かすみが声を詰まらせながらそう返事した。しかし、真実はこうであった。継子と継母の関係はやはり上手くいかなかったようで、何かにつけて昴は明菜に「ママはどこ」と尋ねてくる。流石に毎日のように「ママはどこ」と聞かされると段々苛立ちが募ってしまい、とうとうこの子を何とかしないと、と考えるに至ってしまった。そして、ある時「ママがそこの窓から覗いていたわよ」と嘘を言って昴が窓の外を眺めやすいように台を置いたのだという。そして開け放たれた窓枠に手をついて下を眺めていた時に後ろから押して突き落としたということであった。
車内は重苦しい雰囲気に包まれたが、やがて
「根元さん、これからどうされますか?」
と玲は問いかけた。すると、根元明菜は、
「これから警察署に行って全て話してきます」
と彼らに告げたのである。玲もかすみもこれ以上何か声を掛けることは出来ず、ただ黙って米野警察署に根元明菜を連れて行った。どうやら、昴と母親の美代との感動の再会が彼女の心の中にあった何か嫌な物を綺麗さっぱり洗い流したのだろうか。根元明菜が玲とかすみに深々とお辞儀をした時に見せた表情には、晴れやかな表情の中に何かの決意、恐らく真実を話しり罪を償う決意、を宿した目を覗かせていた。
玲とかすみは、途中の空き地で車を停めて、人気が無いことを確認してから車の召喚を解除し、自分達も転移して自宅に戻った。流石の彼らも今日起きたことが余りにも重く圧し掛かってきたのか、帰宅して直ぐ二人共自室に戻ってベッドに倒れ込んだ。だが玲は、体は睡眠を欲しているが、頭がなぜか冴えてしまいなかなか眠れずにいた。その原因はビジネスに拘った自分の対応であった。本当にこれが正しかったのだろうか、やはりあの時直ぐに除霊に向かった方が良かったのだろうか?自問自答を繰り返すも結論が出ず、結局時間ばかり過ぎていくが、最後は睡眠を欲している体が悲鳴を上げて、漸く深い眠りに落ちたのであった。