召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿2: 心霊サークル夏合宿編 (3日目と最終日)
3日目の朝。この日は朝から小雨に見舞われていた。物部かすみは傘をさして散歩をしようと玄関を出たところで、隣のコテージのテラスではあの2人が傘もささずにタバコをふかしていた。
「傘もささずにタバコを吸うとは、
強者と言うかもうほとんど病気だね君たちは」
と一発かますかすみであった。それに対し「あざーす」とふざけた返事で答える部長の関健太郎と玉石大吾であるが、かすみも気にする素振りは見せない。ちなみに、最神玲が同じ反応をした場合は、確実に「何ですか、あざーすとは?」などとって頬をるであろう。これもかすみによると愛情表現なのだというのだが、やられる玲からすると勘弁してほしいと思うであろう。それはさておき、
「先輩、昨日は凄い活躍だったんですね。
そっちに行けばよかった」
とは関の言葉。でも、関のチームも色々と成果はあったようで、昨晩の報告会でも、霊体を映したカットが何カ所かあり、動画の撮れ高としては昨年を全然上回る成果だと、自画自賛していた。確かに昨年と比較するとよく撮れていたとかすみも思った。ちなみに、玉石のチームも、あいりがほぼはっきりと映る映像が撮れていたときには、その場にいる全員が一瞬、動きを止めて固まるほどインパクトが大きかった。誰かが「これならユーチューブにアップ出来ますよ」と興奮して言っていたが、その場合はやらせとか仕込みとかに気を付けて編集しないとな、との冷静な発言があったりして、その場は何やら騒がしいことになったのであった。
さて、今日の予定を確認すると、今日は全員で廃病院に探索に向かうことになった。この地方は結構山深いところなので、病院を建てても余り運営できないように思うのだが、関が調べたところでは特殊な病院だという。所謂、精神疾患を主に扱う隔離施設を持つ病院と言うことであった。そして、この廃病院は心霊スポットのレベルで行くとマックスに近い位のやばい所らしい。何じゃそのレベルマックスは?とかすみは疑問に思うのだが、何かしら怖さを表す指標が欲しいのかと言うことで納得した。関からの事前報告を受けた部員たちは、気を引き締める者もいれば、今から怖気づく者もいたり、三者三様の状況である。
心霊スポットとなっている廃病院は、キャンプ場から車で1時間程のところにある。その病院は2階建てだが、外壁は全体的に蔦に覆われているのかと錯覚しそうなくらい多くのひび割れが見られ、更に1階部分は本当に蔦が絡んでいたりして、かなり長期間放置されていることを伺わせる。そして心霊サークルのメンバーがいるのは病院の玄関の正面にある駐車場であるが、その建物の裏側にも病棟らしきものが伺える。これらを全て見て回るのは結構時間が掛かりそうな雰囲気だが、血気盛んな若者たちであるから、体力的には問題ない。とは言っても大人数で1カ所ずつ見て回るのもどうかということで、ここでも2グループに分かれて探索することになった。ちなみに、かすみはどちらにもつかずフリーハンドの存在となった。そうすると、かすみは好き勝手にうろちょろするため、結果かすみのグループが自然発生することになってしまうのだ。まあ確かに、かすみの後について行く方が何かを捉えられるのだから仕方があるまい。実際かすみが立ち止まった部屋を撮影するとオーブが撮れたりするのだから、尚更である。
そんなことをしながら正午過ぎになってお腹が空いてきたところで、一旦駐車場に全員が集まって弁当を食べることにした。と言っても昨日と同様、朝出掛ける時に作ったおにぎりを頬張るだけなのだが、それでも空腹を満たせれば満足なのであった。しかも幽霊の監視付きでの食事となると、変に興奮する変態も中にはいたりするのである。
「では後半戦を始めます」との関の合図で、再び探索開始となった。かすみも再びあちこちと歩き回ったのだが、一緒について来るメンバーの一人、キャンプ場へ来る時に一緒だった新入生のが何やら考え事をしているのか物思いに耽っているのか、他の子達とは明らかに挙動が違うのである。どうしたのかとかすみが声を掛けると、高校時代にここに彼氏と肝試しに来たことがあるのだという。それを聞いた1年生の誰かが
「えー、亜寿沙ってここら辺が地元なの?」
と質問して来た。そこで亜寿沙は、
「はい、この辺はそうですね。私の地元になります。
だから、少し懐かしくなりまして。へへ」
と何だか訳ありな感じで愛想笑いをする亜寿沙である。するとかすみは、
「そっか、何かいい思い出でもあったのかな?
うん。お姉さんに話してみな」
と明るく冗談ぽく話すので、亜寿沙も笑顔で「そんなこと無いですよ、先輩」と返したのであったが、張り詰めた笑みの奥に、痛む心を隠しているのをかすみはその時彼女から感じた。およそ心霊スポットを探索している割には、何やらガールズトークになりそうな雰囲気を持つかすみと愉快な仲間達であるが、結局探索終了の午後3時までに、何かしら変異や怪異に会うことは無く、無事にそこを離れてキャンプ場に帰った。
次の日の4日目。この日は心霊サークルの夏合宿最終日である。今朝は少し霧が出ていたが、それよりも朝からコテージの裏に植えられているを勢いよく「カンカンカンカン」と突くの元気さに起こされてしまった。とは言え、こういう環境は今の美土路神社や学生時代に過ごした東洛市では絶対体験できないことで、やはり今自分は自然の中に溶け込んで生活しているんだと実感できて、実は気持ちの良い朝を迎えたのである。そして、そんな今も鳴り響く啄木鳥の打撃音を耳にしながら、そう言えば自分が霊界に迷い込んで、その影響で召喚術が身に着いたのが去年のこの時期だったなと、ふと物思いに耽るのである。そして、それと関連して、昨晩近衛亜寿沙がかすみだけに語ったこと、それも頭をるのである。
近衛亜寿沙がかすみに語ったのは、彼女の高校時代の彼氏のことであった。と言っても所謂「恋バナ」ではなく、彼氏がある心霊スポットで行方不明になったという話である。亜寿沙の彼氏はと言い、亜寿沙と同じ高校の同級生であった。彼とはお互いに心霊好きが共通しており、それで彼の運転するバイクに乗ってよく地元の心霊スポットを訪れていたのだという。そこには、2日目に訪れた廃屋もあれば、3日目に訪れた廃病院も含まれていた。そして、彼が行方不明になったのは、今日これから向かうトンネルの一つなのだと言う。そこで何かしら彼の行方不明に関する証拠なり情報が見つかればと思いこの夏合宿への参加を決めたのであった。このような話をかすみに語った後で亜寿沙はかすみに縋りつくように何でもいいから彼に関する物を見つけて欲しいと懇願したのである。
今日は最終日で、キャンプ場を後にしたら最後の心霊スポットであるトンネルを幾つか巡って、そのまま帰路につくことになる。ちなみにかすみは、彼らの帰宅の邪魔にならない最寄り駅で降ろしてもらうことになった。ただしそこは、単線の1時間に1本しか止まらないような駅であるが、かすみはそれでいいよと言うことで、そこで降ろしてもらうことにしたのだ。
さて、午前9時になってキャンプ場のチェックアウトを済ませて、一路心霊トンネルに直行することになった。かすみは先頭を行く関の車の助手席に収まって、関から「もし途中で何か見かけたら遠慮なく仰ってください」と言うことで、ある意味幽霊の監視役にさせられてしまった。そして車を走らせること1時間過ぎた頃に最初のトンネルに近づいてきたので、車は少しスピードを落とした。実はそのトンネルこそが亜寿沙の彼氏が行方不明になった問題のトンネルなのである。ところが、運転している関がそのトンネルの怪異を語ったところでは、単に女の幽霊が出るだけだという。行方不明とかの噂とかはないのか尋ねたが、これから行く全てのトンネルでそう言う噂になったことは無いということだ。となると、直接怪異が影響していないかもしれないということである。だが、油断は禁物。と言うことで、最初のトンネルに近づくにつれて、かすみも周囲を警戒するようにしていた。と、その時、かすみはトンネルの手前50m程の左手前方から見えて来たあるものに対し、「え、あれって!」と呟いた。そこで透かさず関が「先輩、何かいたんすか?」と聞いて来るので、かすみは咄嗟に「あ、ごめん見間違いだ、はは」と誤魔化した。もしここで停車してじっくり「それ」を観察しようものなら、彼らを巻き込まない保証はないし、もし彼らがそこに足を踏み込んだら、今の自分では絶対に助けることが出来ない。そしてそれは絶対に避けなければならないことであるため、ここは誤魔化すしかなかった。かすみがそこで見たのは、自分の失踪の原因になった降霊転移門、まさにそれだったのである。これはまずいぞ、と思い早速玲にLINEで報告することにしたのだが、実は手が震えてなかなか文字が打ち込めない。そして何とか打ち込んだのが昔の電報のような[例の門を発見 至急連絡を]であった。とりあえず、玲に連絡できたことで今は落ち着きを取り戻してホッとしている。ただ、今の時間は恐らく掃除の真っ最中なので既読にはならないだろうと覚悟はしていたのだが、1分程して既読になった。おー、見てくれたのね、玲、有難う、と急に涙が込み上げてきそうになるのを抑えながら、かすみは心の中で玲に感謝した。そして、
[詳しい場所を教えて 後、絶対に近づかないこと]
と返信があったので、今度は落ち着いて文章を打ち込むことができた。
[今車で移動中なので大丈夫
場所は○○トンネルの東側の入り口の50m程手前]
と送った。ちなみに、車は○○トンネルの内部をゆっくり走行しているところであり、関が何やら語っている最中であったが、かすみの耳には届かず、それ以上の衝撃が頭の中を駆け巡っていた。もしあれが亜寿沙の彼氏の失踪の原因だとすると、とても厄介だぞ、と思わずにはいられなかった。なお、今回のトンネル巡りは、全てのトンネルが県道にあり車の往来もあるため、降りて調査することは難しいと判断して、結局車からの撮影に留まった。そして、
「物部先輩、何かトンネルの中に見えましたか?」
と後部座席の伊藤加奈に聞かれるも、かすみは適当に、「うーん、居たような居ないような、ちょっと微妙かな」とお茶を濁すような受け答えをした。勿論かすみの頭の中には、今はそれどころではないのであるが。
暫くすると、玲からのLINEが届いた。そこには、
[タチアナさんに相談したところ、
今晩かすみが帰宅後にみんなで転移して現地に行きます]
とあった。そっか、タチアナさんもあれを気にしてたもんね、と思い、[了解です]と返信しておいた。これはかなり大事になりそうだとかすみは予感するのだ。
やがて、最後のトンネルを抜けて暫く進んだところに道の駅があるので、そこに休憩がてら集まることにした。そして、亜寿沙は早速かすみの元を訪れて、「物部先輩、何かありましたか?」と尋ねてきた。さてどこまで話すべきか迷うのであるが、差し障りのない程度に
「うん、実は最初のトンネルのところで
ちょっと気になることがあったんだよね。
ただね、そこで停車して皆を引き連れて向かうには
非常に危険を感じたんだ。
勿論根拠は無いけどこの仕事をしてきた勘と言うか、
とにかく危険だと思ったの。
だから敢えて黙ってたんだけど、
私は後日相棒の玲と共に調査することにするよ。
もし何か分かったら亜寿沙に連絡するね」
と答えたのである。そして念のために亜寿沙と連絡先を交換した。
その後道の駅で昼食を取り、後はそのまま帰路につくということで一同解散となった。かすみは、関の車で途中の駅で降ろしてもらい、そこで皆と別れた。関の車が見えなくなった頃合いを見計らって、かすみは直ぐに美土路神社に転移して行った。