召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿2; 心霊サークル夏合宿編 (番外編)
心霊サークルの夏合宿最終日、午後3時を少し回った頃に物部かすみは神社の自室に戻って来た。そして荷物を置いて直ぐに最神玲の居る社務所に向かった。
「玲、今戻ったよ」
「あ、お帰り、かすみ」
と挨拶をして、かすみは玲に今回の心霊サークルでの出来事を語った。
「へー、そんなに凄い霊力の霊体を
ちゃんと除霊できたんだ。
かすみも成長してるんだね」
ん、何かに障る言い方だぞ玲、と一瞬思いかけたが、降霊術とか召喚術に関しては玲に逆らう気は全くないので、素直に有難うと伝えた。そして、一番気になる降霊転移門、あれをどうするのかと尋ねると、
「もう少ししたらタチアナさんがこっちに来るから、
一緒に転移でそこに向かうけど、
かすみは大丈夫かい?
もし疲れてしんどかったら、
家で休んでても良いよ」
と言われるが、こんな面白い、じゃなかった貴重な機会を逃す気はありません、と言って、同行することにした。
そして、5時になって社務所の戸締りを終えた時に、無地の黒いキャップを被ったタチアナが境内に現れた。日没まで2時間近くあるため境内は十分に明るいのだが、幸い参拝客は一人もいないので誰かに咎められる心配などない。
「タチアナさん、来て早々申し訳ありませんが、
これから現地に転移しますが宜しいですか?」
ええ、構わないわよ、と言って、玲は作務衣のままかすみが示したポイントに向けて転移して行った。
「これが、本物というか、
レイ君が見た降霊転移門なのね?」
玲、かすみ、タチアナの目の前にあるのが、かすみが発見した降霊転移門である。こうして改めて見ると、玲がバレル型と名付けたその独特の形とそこから湧き出す輝きは、この場に相応しくないほどの神々しさを醸し出していた。もし失踪事件とかに関係しない召喚門であれば、神を信じない玲であっても間違いなく神への畏敬の念を抱いていただろう。
さて、降霊転移門をに調査している玲とタチアナであるが、玲は特に真新しいものは見つけられなかった。そこで
「タチアナさん、何か気になる点とかありましたか?」
とタチアナに尋ねた。すると、
「ねえ、レイ君。
ここに小さいけど何やら数字があるのよね」
と言われて玲とかすみはそこに注目した。
「え、これって、サモナルドの数字ですね。
・・・・
あ、今、数字が変わった。と言うことは…」
そう、その数字はカウンターの役割をしているのであった。ただ、
「タチアナさん、これって多分、
召喚門の有効時間を示すカウンターですよね。
もしそうであれば、
僕は召喚門にこのようなカウンターを
記述するのを見たことがないんですよ」
「レイ君、私も見たことは無いわ。こんなの初めてよ」
恐らく、このカウンターがゼロになった時に、この召喚門が消滅するのだろうと推測する玲とタチアナであった。
「そうすると、数字はサモナルドの数字だが、
僕もタチアナさんもカウンターを
埋め込む術式は知らない。
そうなると、この降霊転移門の召喚術師は
一体どの時代の人なんだろうか?
あるいは、SFとかにある別世界の人になるのかな?」
残念ながらその答えはこの場で得ることは出来ない。だが、まだ消滅するには時間があるので、玲はこの召喚門に入って中を確認してくると言うのである。
「レイ君、くれぐれも無茶しないでね、
カスミさんも待っているんだから」
とかすみにウィンクするタチアナである。かすみは、「え、べ、別に待っているとか無いんですけど」と詰まりながら答えるも、心の動揺は見透かされている。そして玲は、
「はい、無茶はしませんので、
取りあえず行ってきます」
と言って降霊転移門の中に消えて行った。暫くすると、近くで玲が頭を出してきたので、かすみは一応引っ叩いて無事を確認した。そんな二人を見てタチアナは、「あらー、レイ君可哀想」などと言いながらコロコロ笑っていた。かすみの心の中は、「全く玲の奴、恥ずかしいじゃないか」であったのだが。そして玲が霊界に行ってから30分程経った頃に玲は戻って来た。
「玲、どうだった?何かあったの?」
と早速かすみは尋ねた。すると
「ああ、何体かの死体があったよ。
どうやら誤ってこの降霊転移門に足を踏み入れて、
出られなくなってそのまま亡くなった感じだね」
と言う。そこで、亜寿沙からスマホに送ってもらっていた彼氏の写真を玲に見せたところ、
「あー、学生服を着た男の子も確かにいたよ。
そっか、彼がかすみが言っていた子の彼氏なんだね」
そうすると、やはり亜寿沙の彼氏は霊界に捕らわれて命を落としたのか。そうなると、後は蘇生できるかだが、今は確認する術がない。そこで玲に、三上裕樹の遺体を降霊転移門の近くに持って来てもらうことをお願いした。
「分かった。ちょっと待ってて」
と言って玲は再び降霊転移門に入っていき、直ぐに戻って来た。
「一応、この門の傍に置いておいたので、
蘇生するならこの場であれば
直ぐにできると思う。
ただ、後は彼の魂が転生せずに
霊界にあるかどうかだけどね」
と言うことで、念のため彼の持ち物をこちらの世界に持って来てもらい、かすみが降霊召喚を試みることにした。その結果、三上裕樹の霊魂は召喚門を抜けてこの世界に現れた。と言うことは、彼を蘇生させることは可能と言うことになる。そして、玲が霊界から持ってきた三上裕樹のリュックに入っていた財布を、かすみが後日亜寿沙宛てに送ることにした。
「タチアナさん、有難うございました。
こんな小さなカウンター、
僕だけでは見つけられませんでした」
「いいのよ、レイ君。
それよりも、この後どうするの、これ」
とりあえず、自分の降霊転移門を上書きして、その後消去することにした。これで消えたことを確認して、念のためここに転移門のマーカーを設置して置いた。後は、かすみの後輩の彼氏を蘇生させるかどうかだが、その判断は彼の両親に委ねるしかないということで、3人はその場を後にした。
転移で美土路神社に戻った3人は、タチアナがまだ仕事中であるため、そのまま再び転移でパリに戻って行った。残った玲とかすみは、自宅に戻って自室で着替えてから夕飯を取ることにし、それから今後の段取りを決めていた。
「もし蘇生するなら、蘇生費用を頂戴するけど、
まあ、学生価格の適用で、
100万という価格にしようと思うけど、
かすみはどう思う」
「うーん、そうね、
息子さんが死んでいるのを確認してもらって、
それから蘇生させて生き返ることがあれば、
私なら100万でも安いと感じるけど、
でも普通はどうなんだろう」
と曖昧な答えと結論しか得られない玲とかすみであった。とりあえず、魂が転生せずに霊界に残っていることは確認できたので蘇生できる可能性は見えて来た。
「しかし、玲、あの降霊転移門だけど、
亜寿沙の彼氏が行方不明になったのは
1年程前なのよね。
その後も存続していたということだと、
あとどれくらいの間あそこに在ったのかな?」
「うーん、それは分からない。それと、もしかしたら、
もっと前に設置されていた可能性も捨てきれないよ。
だとすると、そんな長時間にわたって
召喚門を維持するなど、
僕の知識では理解できないんだけどね」
カーンの居た時代のサモナルドでは、何年にも亘って召喚門を維持し続ける技術は全くなかった。あるとしても郵便物を転移させる転移門だけであるが、今は普通に転移できるカーンは転移門を設置するときだけ召喚エネルギーを使うことは分かっている。それで、あの降霊転移門は転移の術式が必要なのか!と今に至って初めてその意図を理解したのであった。
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さて、本編に関係することはここまでであるが、少しだけ後日談を記しておく。
後日電話でかすみは近衛亜寿沙に、三上裕樹が誤って霊界に入り込んでしまい、そこで命を落としたことをまず伝えた。当然亜寿沙は彼の死を覚悟していたが、改めて聞かされるとかなり動揺して落ち込んだ。ところがその後でかすみが亜寿沙を驚愕させることを告げた。それは、彼を生き返られることが可能であるということである。一瞬ゾンビにでもされるのかと懸念を抱いたが、ゾンビではなく生前そのままの姿で生き返らせるというのである。この信じ難い話をかすみが淡々と話すので、自分一人で抱え込めないと判断し、彼の両親にも相談して決めるということをかすみに伝えた。ただし、かすみからは蘇生費用として100万円用意してもらうことも併せて彼の両親に伝えるようにお願いされた。そして、案の定、胡散臭い連中にそんな金は払えないなどとなり、結局この話は一旦無くなったのである。それでも亜寿沙は諦めきれないため、かすみにお願いして彼の状態を見せて貰えないか頼むことにした。その結果、一般人が霊界に入り込むと確実に即死する危険性があるので、彼の遺体を映した写真なら送るということで妥協してもらった(ちなみに、写真は霊視グラス越しにカメラで撮影可能)。そして後日送られてきた写真を見て、亜寿沙は一瞬息が止まるかと思うくらいの強い衝撃を受けた。そこに映されているのは紛れもない三上裕樹である。だが死んでいるためか、顔に生気は全く見られない。それでも、死後1年以上経つのに腐敗は全く見られず、血の気の無い顔以外は昔のままであることに、亜寿沙はもしかしたらと言う可能性に賭けて見たくなった。そこで、その写真を持って亜寿沙は三上裕樹の両親の元を訪れて、蘇生費用を出してもらう様に説得した。その結果、彼の両親ももしかしたら、と言う思いに至り、蘇生に賭けてみることにしたのである。
そして、三上裕樹を蘇生する当日を迎えた。玲とかすみは三上裕樹が失踪したトンネル付近に彼の両親と近衛亜寿沙を呼び寄せて、玲は降霊転移門を設置した。その後直ぐに遺体の回収はせず、玲は彼らに霊視グラスを渡して掛けてもらった。そして、降霊転移門まで彼らを連れて来て、そこから霊界を覗いてもらった。すると地面付近に愛する息子であり、愛しい彼である三上裕樹の遺体をそこに見つけたのであった。彼らは目の前の現実が一体何なのか理解できずに動きを止めて固まってしまった。亜寿沙に至っては、試しに遺体に手を伸ばしたらそこに何かを感じてしまい、ビックリして手を引っ込めてそのまま茫然と立ち尽くしてしまったのだ。それくらいの強い衝撃が彼女達を襲ったのである。その光景を見ていた玲は、蘇生をするかどうかを確認し、蘇生する場合の費用や注意点、蘇生しない場合の措置などを細かく説明した。その結果、彼の両親は蘇生をお願いします、と言うことで玲は蘇生作業に取り掛かることになった。まず、遺体を霊界から連れ戻し、そこで降霊転移門を一旦解除して、引き続き降霊召喚門を展開した。そして三上裕樹の霊魂を呼び出したところ、霊視グラスをかけていた彼の両親と亜寿沙は、彼の霊魂を目の当たりにして、本日何度目かの驚きの声を挙げたのだ。そして玲は霊魂と肉体の同期を行い、無事蘇生作業を終わらせた。その後、玲は三上裕樹に対し物理的な蘇生作業である心臓マッサージを行ったところ、徐々に顔色が良くなる様子が確認できるようになり、心音もはっきり聞こえることが分かり、遂には「ん、ん」と息を吹き返す音を耳にした途端、亜寿沙は信じられない思いでゆっくりと彼の傍に跪いて彼の頬に手を添え、その温もりに震えた指先で何度も確かめた。そして彼の両親は涙が次から次へと溢れて止まらぬまま彼の傍に跪いて、息子の名を何度も何度も呼んでいた。その後、残りの報酬を玲に支払い、彼らは自分たちの車に息子を乗せて、地元の病院に連れて行ったのであった。そして現在、三上裕樹は体力が十分に回復していないため今も入院中であるが、気力は回復して毎日亜寿沙の見舞いを受けているという。