召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
運命の日
直列召喚に関する大規模な実験をいよいよ今日の午後に行うことになった。場所はケンタリア市郊外にある軍の演習場の一角。およそ4キロ四方を2階建ての家の高さ程の塀で囲むこの場所は、軍の演習場とは名ばかりの、どちらかと言うと、召喚術師による各種実験場と言った方が正確であろう。もしくはオープンフィールドの刑務所か。勿論、ケンタリアにも軍は存在するが、ここの軍隊は他国のそれとは大きく異なる。それは、防衛に特化した軍隊であるということ。ケンタリアは国是として中立かつ専守防衛に徹する国として遥か昔に宣言した。その影響か、各地で戦争が起きても、こちらから干渉することは一切なく、また戦争で焼け出された難民を快く受け入れたりしたお陰で、一時期人口が爆発的に増えて、国力も増加したことがあった。そのために、町の規模も拡大していき、建国当初は旧市街と呼ばれる直径2キロ程の小さな都市であったのが、少しずつ周囲に拡張していき、今では直径十数キロに及ぶ広さを持つサモナルド屈指の大都市に変貌した。そんな大都市であり国家としての機能を持つケンタリアにおいて、軍隊は防衛に特化した守備隊みたいな存在になっている。そのため、演習場での訓練と言っても、精々毎年入隊してくる新人のための訓練くらいしか使われないのが実情である。
さて、このような来歴を持つ演習場で、召喚技術研究所第一部主席研究員のカーンフェルトは、助手のサリを初めとするスタッフと共に実験準備に勤しんでいる。ただ、今回の実験は何時もとは大きく異なり、カーン自身が被験者となって行われる。これは、より実践に近い形で行うのが目的であり、現在のところ召喚時の負荷の問題が未解決なため、召喚エネルギーを膨大に持つカーンが自ら行うこととなったのである。
「さて、どこで始めようかな?」
広い演習場なので、特に場所的な制約は無いのだが、なぜか場所を気にしているカーン。
「おっ、こんなところに、
クリモアル柄の石が埋まってるな。
へー、何か良いことありそうな気が。
うん、ここにしよう」
などと何やら一人ぶつぶつと呟くカーンである。ちなみに、クリモアル柄とは、この惑星サモナルドを照らす2連星の太陽のうち、大きい方の名前[クリモア]が由来。ちなみに、もう片方の少し小さい太陽は[クレア]と呼ばれており、これらの名は大昔の神話に由来しているらしい。そして、クリモアル柄とは、綺麗な同心円状の柄で中心から外側に向けてグラデーションがあるものを指す柄であり、サモナルドでは幸運を表す。一説には、サモナルドを照らす2連星の太陽クリモアとクレアが何かの条件で重なるかした時に、ごく短い時間に空全体がその模様で覆われる光景なのだそうであり、この光景が見られるのは、何十年か何百年に一回しかないのだとか。ただし、晴天の日はダメなようで、大気中にある程度水分が無いとみられない幻の現象なのである。
「サリ、ここで始めるよ。
そちらの準備は大丈夫かい?」
「少し待って、計測器の状態が安定しないのよね。
ねー、誰かこの辺で以前実験か何かしてなかった?」
スタッフからは、いいえという返事のみ。暫くサリの調整が続き、やがて
「何とか調整して多分大丈夫です。
実験開始できます」
ということで、いよいよ実験の開始。上層部の方々は、少し離れた展望塔にご臨席ということで、こちらも気合が入ります。
「第一召喚術師を召喚確認。
続けて第一召喚術師から第二召喚術師の召喚を確認。
…。
第五召喚術師から第六召喚術師の召喚を確認。
今のところ、計測器等に異常なし」
計測スタッフからの異常なしとの報告。カーンは、まず最初の召喚術師を召喚、次にその召喚術師が別の召喚術師を召喚。その後カーン含めて6人の召喚術師が横一列に並んで勢ぞろいした時点で、
「続けて、各召喚術師からの
召喚対象の召喚作業に入ります」
各召喚術師が目の前に広がる演習場に向けて創成召喚で兵士の召喚を行う。その総数、きっちり6000体。カーンの召喚エネルギーの凄まじさを物語るものである。一般の召喚術師だと一人で最大でも100体召喚出来るかどうかと言われるが、カーンの召喚したこの桁違いの軍隊を見てしまうと、見学に来ている軍や政権の上層部は驚きと共に言葉を失ってこの光景をただ見つめるばかりである。
「各隊、第三召喚術師の部隊を中心に包囲戦に移れ」
この指示に従って、召喚兵は、迅速に包囲戦に向けての移動を始める。統率の取れた綺麗な移動を見るに、何やら広大な地での演劇を見ているかのように錯覚しそう。その後、幾つかの陣形と連携を確認し、召喚解除をするに至るが、その時
「サリさん、第三召喚術師の召喚エネルギーに
異常な挙動が見られますが」
「え、どれ。うーん、何だろう。
他の召喚術師に異常は?」
「カーンさんと、第一と第二召喚術師には
問題ありませんが、
第四と第五召喚術師に異常が見られます。
如何しましょうか?」
「直ちに召喚解除に移るようにカーンに指示して」
「あっ、待ってください。
第三召喚術師がエネルギー暴走に入りました!!」
「えっ、ちょっと、待って! 何どういうこと?」
「あっ、まずいです。
第四第五に続いて第一と第二も暴走に入りました!」
「カーン! 今直ぐ召喚解除して!さもないと、あなた..」
サリの叫びがカーンに届くことはなく、カーンは一瞬パニックに陥って固まった表情のままサリの方に振り向こうとするも、自ら召喚した召喚術師と共にそのまま召喚門に消えていった。
一体何が起きたのか、何も考えられず、茫然自失となってへたり込むサリ。でも、そんなサリでも分かることは、今ここにカーンがいないこと。なんで?どうして?何が起きたの?自問自答しても答えはない。そして、この突発的なアクシデントは、その場にいる者全てに瞬時に伝わるが、何が起きたのかを知るものはまだ誰もおらず。皆、何が起きたのか把握するのに時間がかかるようであった。
そしてこの日、ケンタリアが生んだ偉大なる召喚術師となったであろうカーンフェルトがこの世から消えたのである。享年20歳の若さで。
「報告します。先程ケンタリアの協力者から
密書が送られてきましたので、
こちらにお持ちしました」
ご苦労と言って密書を受けとるルメイン。早速、その内容に目を通した途端、彼は何かに驚いたように目を見開くのである。そうか、実験に失敗しただけでなく、彼も消えたか。うん、これは我々にとってはだ。後はケンタリアの防衛力を削るだけだ。それで何の心配もなくあそこに向かえる。