悪役令嬢は世界のバグを修正する
レティシアの掌の上に、
炎が生まれる。
小さな火。
だが、それは普通の火球ではなかった。
炎は揺れない。
風に揺らぐことも、
不規則に膨らむこともない。
静かに、
その場に留まっている。
完全な形。
球体。
まるで職人が削り出した彫刻のように、
正確な円。
学生たちが息を呑む。
「……綺麗」
誰かが思わず呟いた。
普通の火球は揺れる。
炎は常に形を変え、
わずかに膨張し、
時には不安定に揺らぐ。
だが。
レティシアの火球は違う。
炎が、
完全に制御されている。
燃えているのに、
乱れがない。
その異様な安定性に、
周囲の学生たちは言葉を失っていた。
レティシアは火球を見つめる。
表情は変わらない。
静かなまま。
そして。
ゆっくりと手を前へ動かした。
その動きに合わせるように、
火球が前へ進む。
滑るように。
空気を裂く音すらない。
一直線。
火球は真っ直ぐ飛び、
演習場の奥に設置された標的へ向かう。
距離は二十メートルほど。
だが軌道は一切ぶれない。
まるで見えない線の上をなぞるように、
正確に進んでいく。
そして――
標的の中心。
赤い印のど真ん中に、
火球が触れた。
次の瞬間。
小さく光が弾ける。
だが、
爆発は起きない。
炎が広がることもない。
火球はその場で、
静かに消えた。
完全にエネルギーを使い切り、
余剰魔力を残さず、
暴走もせず、
痕跡すら残さない。
完全制御。
演習場が静まり返る。
誰も声を出さない。
ただ、
今見た魔法を理解しようとしていた。