悪役令嬢は世界のバグを修正する
演習場の静寂はまだ続いていた。
学生たちは今の火球を思い出しながら、互いに顔を見合わせている。
その中で、
アルドリック教授はゆっくりと視線を横へ動かした。
魔法陣の横に設置されている装置。
水晶でできた測定器。
魔力測定装置。
魔法発動時の魔力量と消費量を記録する、学園の研究設備だ。
教授はその水晶を覗き込む。
そして。
次の瞬間、
眉がわずかに動いた。
「……?」
水晶の内部に浮かぶ数値。
魔力反応。
発動記録。
それを見て、
教授の表情がゆっくり変わる。
「……魔力消費が」
小さく呟く。
そして、
信じられないものを見るように続けた。
「少なすぎる」
その言葉に、近くの学生たちが反応する。
「え?」
「どういうことですか?」
教授は水晶を見たまま言う。
「通常の火球魔法の消費量は、この値だ」
杖の先で装置の数値を示す。
「だが今の魔法は――」
一瞬、言葉を切る。
そしてはっきりと言った。
「その半分以下だ」
学生たちが一斉にざわめく。
「え?」
「半分?」
「そんなことある?」
火球魔法は基本魔法だ。
必要な魔力量もほぼ決まっている。
もちろん多少の個人差はある。
だが。
半分以下。
それは常識から外れていた。
学生の一人が困惑した声を出す。
「でも……」
「威力は普通でしたよね?」
教授が頷く。
「むしろ理想的だ」
つまり。
威力はそのまま。
制御は完璧。
それでいて。
消費魔力は半分以下。
それは何を意味するのか。
学生の一人が小さく呟く。
「……魔力効率」
別の学生が続ける。
「異常じゃないか?」
ざわめきが広がる。
普通の魔法使いは、
魔力の多くを無駄にしている。
発動時の揺らぎ。
制御のロス。
魔力変換の誤差。
だが、
もしそれらを完全に排除できるなら――
消費魔力は大幅に減る。
つまりレティシアの魔法は、
極限まで無駄がない。
アルドリック教授はもう一度水晶を見た。
そして静かに思う。
(この制御は……)
(ただの才能ではない)
魔法理論を理解している者の魔法。
いや、
それ以上の何かだ。
教授の視線が、
静かにレティシアへ戻る。