悪役令嬢は世界のバグを修正する
次の瞬間。
演習場の空気が一気に崩れた。
ざわめきが広がる。
今までの静寂が嘘のように、
学生たちが小声で話し始めた。
「今の見た?」
男子生徒が隣の友人に身を乗り出す。
「見たも何も……」
友人が呆然と答える。
「魔力、揺れてなかった」
普通の魔法では必ず起きる魔力の波。
発動時の乱れ。
だが、
レティシアの火球にはそれがなかった。
まるで最初から
完成された魔法のようだった。
後ろの方では令嬢たちが囁き合っている。
「詠唱も短かったわ」
「一言だったわよね?」
「Ignisだけ……」
普通なら複数の詠唱が必要だ。
火属性の変換。
魔力の安定化。
発動制御。
それらをすべて一言で済ませた。
学生の一人が信じられないという顔で言う。
「そんなの……」
「上級魔法使いじゃないと無理だろ」
別の学生が腕を組みながら言う。
「しかも魔力消費が半分以下だ」
「意味が分からない」
驚きと困惑。
そして、
少しの興奮。
演習場のざわめきの中で、
誰かがぽつりと言った。
「……天才じゃない?」
その言葉。
とても小さな声。
だが。
それは静かに広がっていった。
「天才……」
「確かに」
「普通じゃない」
さっきまで
舞踏会事件の噂で見られていた令嬢。
だが、
今は違う。
学生たちが見ているのは、
社交界の話題人物ではない。
魔法使いとしてのレティシア。
そしてその評価が、
一つの言葉に集約されていく。
天才。
その言葉が、
演習場の空気の中に
静かに広がっていった。