悪役令嬢は世界のバグを修正する
レティシアの視線は石板に固定されたままだった。
周囲では学生たちがざわざわと話している。
だが、その声はもう彼女の耳に入っていない。
思考が石板へ集中している。
刻まれたルーン。
線の配置。
交差する曲線。
それらがただの模様ではないことを、
彼女の直感が告げていた。
レティシアは小さく呟く。
「これは……」
ほとんど息のような声。
誰にも聞こえない。
彼女の瞳が石板をなぞる。
そして、
ゆっくりと首を横に振った。
「魔法言語じゃない」
古代の言葉。
呪文。
詠唱。
そんなものではない。
これは――
「魔法構造」
言葉というより、
仕組み。
魔力の流れを制御するための形。
線は魔力の通路。
交差は分岐。
重なりは変換。
それは魔法陣に近い。
だが魔法陣よりも、
さらに根本的なもの。
レティシアの思考がさらに進む。
これは呪文ではない。
システム。
魔法を動かすための設計。
仕組みそのもの。
レティシアの口から、
もう一つの言葉がこぼれる。
「……魔法コード?」
コード。
その概念。
命令。
構造。
規則。
まるで、
何かを動かすための
プログラムのようなもの。
石板のルーンは、
ただの文字ではない。
それは、
魔法の根本を動かす
記述。
レティシアの胸の奥で、
ある考えが静かに形を取る。
もしこれがコードなら――
それは単なる魔法ではない。
もっと大きなもの。
もっと根本的なもの。
世界のルール。
石板のルーンは、
その一端なのかもしれなかった。