悪役令嬢は世界のバグを修正する
王立アルカディア学園の昼休み。
太陽の光が柔らかく庭園を照らしていた。
本館の前に広がる中庭には、白い石の噴水がある。
水は静かな音を立てながら流れ落ち、その周囲には整えられた花壇と芝生が広がっていた。
昼の時間になると、学生たちはここに集まる。
ベンチに座って紅茶を飲む者。
庭を歩きながら会話を楽しむ者。
木陰で本を読む者。
王国最高峰の貴族学園らしい、優雅な空気が流れていた。
しかし今日の中庭には、いつもと少し違う熱があった。
学生たちはあちこちで小声で話している。
話題は――
一つだった。
「昨日の授業聞いた?」
男子学生の一人が言う。
隣の友人が頷いた。
「ああ、魔法理論だろ?」
別の学生が身を乗り出す。
「古代ルーンの話だ」
「なんでも、理解したらしい」
「誰が?」
一瞬の沈黙。
そして答えが出る。
「レティシア・アルヴェルン」
その名前が出た瞬間、周囲の学生たちも反応した。
「本当か?」
「教授が驚いてたって聞いた」
「構造式とか言ったらしいぞ」
「構造式?」
理解できない単語に、何人かが首をかしげる。
だが話は止まらない。
「古代ルーンだぞ?」
「研究者でも解読できないやつだ」
「それを学生が?」
信じられないという声。
だが、すぐに別の学生が言った。
「でも昨日の魔法実技もあっただろ」
「あの火球」
「魔力半分だったって」
「あれ本当?」
「教授が言ってたらしい」
中庭のあちこちで同じ話題が繰り返されていた。
魔法実技。
古代ルーン。
公爵令嬢。
そして。
舞踏会事件。
噂はすでに学園全体へ広がっている。
ある学生が小さく呟いた。
「噂の令嬢……」
別の学生が言う。
「いや」
少し考えてから続ける。
「噂以上かもしれない」
昼休みの庭園。
その優雅な空気の中で、
一人の名前だけが静かに広がり続けていた。
レティシア・アルヴェルン。