悪役令嬢は世界のバグを修正する
中庭の反対側。
花壇の近くにある白いテーブルには、数人の令嬢たちが集まっていた。
整えられたドレス。
優雅な紅茶の時間。
一見すると穏やかな昼休みのひととき。
しかし彼女たちの視線は、ある一点へ向けられていた。
庭園の奥。
学生たちが行き交う道。
その先にいる人物。
一人の令嬢が小さく言う。
「……あの方よね」
別の令嬢が頷いた。
「ええ」
少し声を潜める。
「王太子を論破した人」
舞踏会の夜。
王都社交界を揺るがした事件。
王太子の断罪。
そしてそれを覆した公爵令嬢。
その話はすでに学園中に広がっている。
別の令嬢が興味深そうに言う。
「魔法も天才って本当?」
昨日の魔法実技。
古代ルーンの授業。
噂はすぐに広まった。
隣の令嬢が困惑した顔をする。
「そんな人いる?」
貴族社会には優秀な者は多い。
魔法の才能。
政治的な知性。
家柄。
だが。
すべてを持つ人物など、そうはいない。
少し沈黙が流れる。
紅茶のカップを持っていた令嬢がぽつりと呟いた。
「……怖いわ」
その言葉に、誰もすぐには否定しなかった。
尊敬。
驚き。
そしてわずかな恐れ。
一人の令嬢が小さく言う。
「でも」
「敵にはしたくないわね」
その言葉に、周囲の令嬢たちは静かに頷いた。
レティシア・アルヴェルン。
かつては
「王太子の婚約者」
として知られていた令嬢。
しかし今は違う。
舞踏会で断罪を覆した令嬢。
学園で天才と噂される魔法使い。
そして。
その存在は、
少しずつ変わり始めていた。
悪役令嬢。
本来ならそう呼ばれるはずの立場。
だが今は違う。
その名は、
静かに別の意味を持ち始めていた。
カリスマ。
学園の空気が、ゆっくりと変わり始めていた。