悪役令嬢は世界のバグを修正する
昼休みの中庭。
学生たちの会話があちこちで続いていた。
噴水の水音。
紅茶の香り。
穏やかな昼の時間。
しかし――
その時。
庭園の入口から一人の人物が現れた。
銀色の髪。
整った立ち姿。
気品ある制服。
レティシア・アルヴェルンだった。
その姿が見えた瞬間、
中庭の空気がわずかに変わる。
学生の一人が小声で言った。
「……あ」
別の学生も振り向く。
「レティシア様」
そして。
不思議なことが起きた。
あちこちで続いていた会話が、
少しずつ止まっていく。
視線が集まる。
男子学生。
令嬢たち。
皆がそれとなく彼女を見ている。
噂の中心人物。
舞踏会事件の令嬢。
魔法の天才。
そんな存在が、今目の前を歩いている。
しかし――
当の本人は、まったく気にしていなかった。
レティシアは静かに中庭を歩く。
噴水の近くの席へ向かう。
そして自然な動作で椅子に腰掛けた。
侍女が用意した紅茶を受け取る。
カップを持ち、
一口飲む。
その動作はとても落ち着いていた。
まるで周囲の空気など存在しないかのように。
さらに。
彼女は本を開いた。
厚い魔法理論書。
ページをめくる。
静かに読み始める。
完全に普段通りだった。
中庭の学生たちは、
その様子を見て戸惑う。
(え?)
誰かの心の声。
(気づいてない?)
別の学生も思う。
(あんなに見られてるのに?)
レティシアは、
本の文字を追いながら静かに紅茶を飲む。
その姿はとても自然だった。
まるで。
周囲の視線など、
最初から存在していないかのように。