悪役令嬢は世界のバグを修正する
レティシアが本を読んでいると、
ぱたぱたと足音が近づいてきた。
「レティシア様!」
明るい声。
顔を上げると、クラスメイトの令嬢が立っていた。
頬を少し赤くし、目を輝かせている。
かなり興奮している様子だった。
レティシアは本を閉じ、穏やかに首を傾げる。
「どうしたの?」
その瞬間、
令嬢は一歩身を乗り出した。
「昨日の授業、本当なんですか!?」
勢いがすごい。
レティシアは瞬きを一つする。
令嬢はさらに続ける。
「古代ルーンを理解したって聞きました!」
「教授がすごく驚いてたって!」
「構造式って言ったって!」
質問が次々飛んでくる。
周囲の学生たちも、さりげなく耳を傾けていた。
紅茶を飲んでいた令嬢。
ベンチに座る男子学生。
皆がこの会話を聞こうとしている。
レティシアは少しだけ考えた。
そして、
静かに答える。
「……少しよ」
令嬢が瞬く。
レティシアは淡々と続けた。
「少し構造が見えただけ」
それだけ言って、
紅茶のカップを口元へ運ぶ。
自然な仕草。
まるで大したことではないように。
しかし――
周囲の学生たちは固まっていた。
(少し……?)
誰かの心の声。
(構造が見えた……?)
別の学生の思考。
古代ルーン。
数百年研究されても解読できない文字。
それを。
「少し見えた」
その程度の感覚で言っている。
令嬢はしばらく言葉を失っていたが、
やがて小さく呟いた。
「……すごいです」
レティシアは首を傾げる。
「そう?」
本気で不思議そうだった。
その反応を見て、
周囲の学生たちは同時に思った。
(この人……)
(自覚ないんだ……)
天才。
それも、
完全に無自覚の天才だった。