悪役令嬢は世界のバグを修正する
王立アルカディア学園・職員室。
重厚な木の扉の向こうには、静かな部屋が広がっている。
壁一面の書棚。
古い魔法書や研究資料が並び、部屋には紙とインクの匂いが漂っていた。
数人の教授たちが机を囲み、書類を確認している。
その中の一人がふと顔を上げた。
「……例の公爵令嬢か」
低い声。
机の向かいに座る教授が頷く。
「ええ」
手元の書類を軽く叩く。
「魔法実技の報告も見ました」
そこには昨日の授業記録が書かれていた。
火球魔法。
魔力消費量。
制御精度。
数値は明らかに異常だった。
別の教授が腕を組む。
「学生の記録とは思えんな」
「普通はもっと魔力を消費する」
その時、
窓際に立っていた人物が口を開いた。
アルドリック教授だった。
白髪の老教授。
静かな目で外を見ながら言う。
「魔力効率が異常だ」
部屋が少し静かになる。
彼は続けた。
「通常の半分以下」
「それでいて制御は完璧」
他の教授が眉をひそめる。
「理論上は可能だが……」
「学生には無理だ」
アルドリック教授はゆっくり振り返った。
そしてもう一つの話を口にする。
「それだけではない」
教授たちが顔を上げる。
「昨日の魔法理論の授業で」
「彼女は古代ルーンを見た」
短い沈黙。
アルドリックは静かに続ける。
「そして言った」
「文字ではない、と」
教授たちの目が変わる。
「何だと?」
アルドリックの声は落ち着いていた。
「構造式だと」
その言葉が落ちた瞬間、
職員室の空気が固まる。
誰もすぐには話さなかった。
古代ルーン。
数百年研究されても解読できない文字。
それを。
学生が。
構造として認識した。
一人の教授がゆっくりと呟く。
「……まさか」
別の教授も低い声で言う。
「あり得るのか」
沈黙。
そして最後に、
年配の教授がはっきりと言った。
「結論は一つだ」
短い言葉。
部屋にいる全員が理解していた。
「天才だ」
誰も否定しなかった。