悪役令嬢は世界のバグを修正する
昼休みの中庭。
噴水のそばの席で、レティシアは静かに本を読んでいた。
紅茶のカップがテーブルに置かれている。
周囲ではまだ学生たちがひそひそと話しているが、彼女は気にする様子もない。
ページを一枚めくる。
その時だった。
軽やかな足音が近づいてくる。
「レティシア」
柔らかな声。
レティシアは顔を上げた。
そこに立っていたのは、一人の令嬢だった。
長い金色の髪。
整った顔立ち。
落ち着いた微笑み。
その姿は目を引くほど美しい。
セシリア・アルヴェルン。
レティシアの姉だった。
彼女が現れた瞬間、
中庭の空気が少しだけ変わる。
先ほどまでの緊張した雰囲気が、ふっと和らいだ。
セシリアは社交界でも有名な人物だ。
穏やかで、親しみやすく、
誰とでも自然に会話できる。
レティシアとはまた違うタイプの存在だった。
セシリアはレティシアの隣の椅子に腰掛ける。
「隣、いいかしら?」
「ええ」
レティシアは自然に頷く。
セシリアは紅茶のポットを取り、カップに注ぐ。
その仕草も優雅だった。
「今日も本?」
彼女が軽く尋ねる。
レティシアは本を少し持ち上げる。
「魔法理論」
「また難しそうね」
セシリアが小さく笑う。
姉妹の会話はとても自然だった。
気取った様子も、
緊張もない。
ただ普通に会話している。
周囲の学生たちはその様子をちらりと見ていた。
公爵家の姉妹。
だが、
そこにある空気は意外なほど穏やかだった。
まるで、
どこにでもいる姉妹のように。