悪役令嬢は世界のバグを修正する
中央ホールの空気は、まだざわついていた。
王国騎士団推薦。
王宮魔法研究所推薦。
その言葉の重みを、学生たちはそれぞれに噛みしめている。
教師はざわめきが収まるのを待ち、
再び口を開いた。
「なお」
その一言で、視線が集まる。
「この大会は任意参加ではありません」
一瞬、静まり返る。
学生たちが顔を見合わせる。
教師は淡々と続けた。
「王立アルカディア学園の規則により」
「貴族学生は全員参加です」
数秒の沈黙。
そして。
「……は?」
小さな声が漏れる。
別の学生が思わず言った。
「全員?」
教師は頷く。
「そうです」
「例外はありません」
ホールのあちこちからため息が聞こえる。
「まじか……」
「今年も出なきゃいけないのか」
「これ嫌なんだよな……」
王立アルカディア学園は貴族のための学園。
ここで学ぶ者は、
将来、領地を持ち、
兵を率い、
国を守る立場になる。
教師は静かに言った。
「将来の貴族は」
「戦闘魔法を扱える必要があります」
その言葉には反論の余地がなかった。
貴族は戦えなければならない。
それがこの国の常識。
教師は続ける。
「よって、この大会は」
「実戦能力確認の意味もあります」
つまり――
逃げられない。
学生の一人が肩を落とす。
「最悪だ……」
別の学生も苦笑する。
「毎年これで評価決まるんだよな」
だが。
その一方で。
少し離れた場所にいる上級生たちは、
まったく違う表情をしていた。
腕を組み、
掲示をじっと見ている。
目が真剣だ。
一人が言う。
「今年こそだな」
別の学生が頷く。
「騎士団推薦……狙える」
彼らにとっては義務ではない。
これは――
チャンス。
実力を示し、
将来を掴むための舞台。
同じ大会でも、
見る者によって意味は違う。
中央ホールのざわめきの中で、
今年もまた――
戦いの準備が始まっていた。