悪役令嬢は世界のバグを修正する
中央ホールのざわめきは、しばらく続いていた。
掲示板の前では、まだ多くの学生が大会の話をしている。
だが、話題は少しずつ変わっていった。
誰が出るのか。
ではなく――
誰が勝つのか。
柱の近くで、数人の男子学生が小声で話していた。
「で、今年の優勝候補は?」
その問いに、すぐ答えが返る。
「決まってるだろ」
腕を組んだ学生が言う。
「カイルだ」
別の学生も頷く。
「ああ」
「去年準優勝だしな」
王立魔法競技大会は一年に一度。
つまり、上級生には過去の戦績がある。
去年の大会で最後まで勝ち残った者は、
自然と今年の有力候補になる。
別の学生が付け加える。
「しかも騎士団志望だろ」
王国騎士団。
戦闘魔法の実力を最も評価する組織。
そこを目指す学生は、
当然、大会にも本気で挑んでくる。
「今年は本気だぞ、あいつ」
「優勝狙ってるって聞いた」
「そりゃそうだろ」
会話は自然と一つの名前に集まっていく。
学園には公式の順位はない。
だが、
暗黙のランキングがある。
魔法の強さ。
戦闘能力。
制御精度。
実力者の名前は、誰もが知っている。
そして今年、
最も多く名前が挙がる人物。
一人の学生が小さく言った。
「カイル・ヴァルグレイ」
その名前が出た瞬間、
周囲の数人も反応する。
「ああ」
「間違いないな」
「本命だ」
侯爵家の嫡男。
炎魔法の使い手。
実戦向きの魔法。
体術も強い。
学園の中でもトップクラス。
誰も異論を出さなかった。
今年の大会。
その中心にいるのは、
間違いなく――
カイル・ヴァルグレイだった。