悪役令嬢は世界のバグを修正する
カイルの言葉に、周囲の学生たちは納得したように頷いていた。
今年の優勝候補。
その中心は間違いなく彼だ。
誰もがそう思っている。
だがその時、
少し離れた場所にいた学生が、ふと思い出したように言った。
「でもさ」
視線が集まる。
「レティシア様は?」
その名前が出た瞬間、
空気がわずかに変わった。
さっきまでの軽い会話が、
少しだけ静まる。
別の学生が小さく言う。
「……ああ」
「公爵令嬢」
舞踏会事件。
王太子との婚約破棄。
証言を崩し、
断罪を覆した令嬢。
その話は学園中に広がっている。
さらに。
魔法実技。
古代ルーン。
教授を黙らせた授業。
最近の話題の中心人物だった。
カイルの眉がわずかに動く。
「レティシア……」
小さく呟く。
そして思い出すように言った。
「アルヴェルン公爵家の令嬢か」
周囲が頷く。
「そう」
「最近すごいらしい」
「魔法も天才って聞いた」
だが。
カイルは腕を組み、少し考える。
舞踏会の話は知っている。
政治の話としても有名だ。
だが。
魔法の実力は――
まだ見ていない。
噂はいくらでもある。
だが実戦は別だ。
カイルは少しだけ笑った。
「見てみたいな」
周囲が反応する。
「え?」
カイルは掲示板の方を見ながら言う。
「どれくらいのもんか」
声は落ち着いている。
挑発でも、
否定でもない。
純粋な興味。
強い者が、
強いかもしれない相手に興味を持つ目だった。
「公爵令嬢でも」
小さく続ける。
「大会じゃ関係ない」
実力だけが出る場所。
それが魔法競技大会。
カイルは軽く肩を回し、
歩き出す。
「出るなら」
振り向かずに言った。
「当たるかもな」
その言葉に、
周囲の学生たちは思わず顔を見合わせた。
今年の大会。
優勝候補カイル。
そして、
噂の令嬢レティシア。
二人の名前が、
初めて同じ場所で語られた瞬間だった。