悪役令嬢は世界のバグを修正する
図書室の静けさの中で、
レティシアは再び本を開いていた。
ページをめくる音だけが、規則的に響く。
向かいに座るセシリアは、
そんな妹の様子をしばらく眺めていた。
そして、ふっと笑う。
「あなたって、本当に変わらないわね」
レティシアは顔を上げない。
「何が?」
セシリアは頬杖をつきながら言う。
「大会よ」
「王立魔法競技大会」
少し身を乗り出す。
「優勝、狙わないの?」
その問いに、
レティシアは一瞬だけ考えた。
だがすぐに答える。
「別に」
あまりにもあっさりした声。
冗談でも、
遠慮でもない。
本当に興味がない。
セシリアは目を細める。
「騎士団推薦よ?」
反応なし。
「王宮魔法研究所推薦よ?」
レティシアは本をめくりながら言った。
「必要なら受けるわ」
「でも、優勝する必要はないでしょう?」
その言い方は、
勝てないからではない。
勝つこと自体に意味を感じていない口調だった。
セシリアはしばらく黙る。
そして小さくため息をついた。
「……もったいないわね」
レティシアが顔を上げる。
「何が?」
セシリアは少し笑って言った。
「あなた、自分がどれくらいすごいか分かってないでしょ」
レティシアは少しだけ考える。
だが結局、
首を傾げただけだった。
「普通よ」
その一言に、
セシリアは思わず吹き出しそうになる。
「普通の人はね」
指を一本立てる。
「教授を黙らせないの」
レティシアは少しだけ目を逸らす。
「黙らせたつもりはないわ」
「結果的にそうなっただけ」
セシリアは肩をすくめる。
「それを普通って言うのよ、あなたは」
少しの沈黙。
図書室の静かな空気が戻る。
セシリアは椅子にもたれ、
優しく妹を見る。
「本当に……」
小さく呟く。
「天才なのに」
だが、
レティシアはその言葉にも反応しない。
ただ静かにページをめくる。
まるで、
自分の才能など
最初から存在していないかのように。