悪役令嬢は世界のバグを修正する
ページをめくる音が、静かに図書室に響いていた。
外の喧騒とは別世界のような静けさ。
セシリアは椅子にもたれたまま、ぼんやりと窓の外を見ている。
レティシアは本に視線を落とし、
魔法理論の式を追っていた。
その時だった。
視界の端で、
何かが光った。
ほんの一瞬。
赤い点滅。
レティシアの指が止まる。
ページをめくる動きが止まり、
視線だけがわずかに上を向いた。
空中。
何もないはずの場所に、
一瞬だけ文字が浮かぶ。
赤い光。
無機質な表示。
SYSTEM EVENT DETECTED
次の瞬間、
それは消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
図書室は変わらず静か。
周囲の学生も、
セシリアも、
誰も気づいていない。
レティシアだけが、
ゆっくりと目を細めた。
(また……)
舞踏会の夜。
空に浮かんだ赤い文字。
WORLD CODE FAILURE
REWRITE REQUIRED
あの時と同じ。
世界の奥にある何かが、
わずかに動いた感覚。
レティシアは本を閉じた。
表情は変わらない。
だが思考だけが静かに動いている。
(SYSTEM…)
(EVENT…)
頭の中で言葉を並べる。
そして、
掲示板の告知を思い出す。
王立魔法競技大会。
一年に一度のイベント。
全員参加。
トーナメント形式。
優勝者に報酬。
まるで。
まるで――
(イベント……)
レティシアの指先が机の上で止まる。
(これも……)
心の奥で、小さく呟く。
(イベントなの?)
物語のように決められた流れ。
決められた役割。
悪役令嬢。
断罪。
崩壊した脚本。
そして、
新しく生成されたルート。
DISASTER ROUTE
思考が繋がる。
(この世界は)
(やっぱり……)
ほんのわずかに目を伏せる。
(物語構造……?)
その瞬間、
視界の端に
一瞬だけノイズが走った。
だがすぐに消える。
何もなかったように、
図書室の静けさが戻る。
レティシアはゆっくりと本を開いた。
そして何事もなかったように、
ページをめくる。
だが心の奥では、
確信が少しずつ形になり始めていた。