悪役令嬢は世界のバグを修正する
大会前日。
王立アルカディア学園は、
いつもとは違う熱気に包まれていた。
魔法演習場では、
夜遅くまで訓練の光が消えない。
火球が弾ける音。
風刃が空を切る音。
結界に当たる衝撃音。
学生たちが本気で魔法を練習している。
「もう一回だ!」
「制御を安定させろ!」
「大会まで時間ないぞ!」
普段は優雅な貴族子女たちも、
この時ばかりは余裕がない。
教室でも、
廊下でも、
食堂でも、
話題は一つだった。
王立魔法競技大会。
学生たちの会話。
「優勝候補はやっぱカイルだろ」
「上級生も強いぞ」
「魔法特化の研究科のやつも出るらしい」
名前が次々に挙がる。
戦闘型。
制御型。
理論型。
それぞれの実力者。
そして、
ふと誰かが言った。
「……レティシア様は?」
一瞬、沈黙。
視線が交差する。
だが、
誰も答えられない。
「出るのか?」
「本気なのか?」
「強いのは分かるけど……」
噂は多い。
だが実戦はまだ見ていない。
舞踏会。
魔法実技。
古代ルーン。
すべて本当らしい。
だが、
大会でどうなるかは分からない。
結局、
誰も結論を出せなかった。
「……分からん」
その一言で会話は終わる。
その頃。
学園寮。
レティシアの部屋。
窓が開いている。
夜の風が静かに入ってくる。
レティシアは窓辺に立ち、
空を見上げていた。
星が瞬いている。
静かな夜。
何も変わらない世界。
そのはずだった。
だが。
一瞬だけ。
星が揺れた。
ノイズのように、
ちらつく光。
ほんの一瞬。
誰も気づかないほどの違和感。
レティシアの目だけが細くなる。
(また……)
舞踏会の夜。
赤い文字。
世界の警告。
REWRITE REQUIRED
DISASTER ROUTE
SYSTEM EVENT DETECTED
全部、繋がっている。
レティシアは小さく呟いた。
「大会……ね」
声は静かだった。
感情はほとんどない。
だが。
心の奥で思考だけが動いている。
(もしこれが)
(イベントなら)
大会。
参加者。
勝者。
報酬。
まるで、
物語の進行。
レティシアの瞳が、
夜空の星を映す。
(勝敗も……)
ほんのわずかに目を伏せる。
(決まっているの?)
その瞬間。
星がもう一度だけ、
ノイズのように点滅した。
何も答えないまま。
世界は静かに、
次のイベントへ進もうとしていた。