悪役令嬢は世界のバグを修正する
トーナメント表の表示が終わると、
演習場の中央に教師たちが集まった。
魔法陣が淡く光り、
競技用結界がゆっくりと展開される。
巨大な半透明の壁が、
フィールド全体を包み込んだ。
ざわめきが広がる。
「結界だ」
「本戦用か」
「本気のやつだな…」
中央に立った試験官が、
杖を軽く振る。
声が魔法で拡張され、
観客席まで響いた。
「これより本戦トーナメントのルールを説明する」
空中に文字が浮かぶ。
本戦 模擬戦闘試験
学生たちの表情が引き締まる。
試験官は続けた。
「本戦は一対一の模擬戦闘で行う」
「この結界内で戦い」
「勝敗を判定する」
結界がさらに強く光る。
重ね掛けされた安全術式。
教師の一人が補足する。
「結界には暴走防止術式が組み込まれている」
「致命的な危険は発生しない」
観客席の貴族たちも頷く。
安全が保証されているからこそ、
全力が求められる。
試験官が手を上げる。
空中表示が切り替わる。
勝敗条件
・降参
・戦闘不能
・武器破壊
・魔法不能
学生たちが小声で読む。
「魔法不能…」
「術式破壊もありか」
「結構厳しいな」
試験官が言う。
「相手の戦闘能力を奪った時点で勝利とする」
「必要以上の攻撃は禁止」
「違反は即失格」
その言葉のあと、
観客席の一角に視線が集まる。
騎士団の制服。
数名の騎士が腕を組んで立っている。
さらにその後ろ。
黒いローブの観察官。
王宮魔法研究所。
試験官が続ける。
「本大会には」
「王国騎士団が監視として参加している」
騎士たちがわずかに頷く。
「また」
「王宮魔法研究所の観察官も出席している」
観察官の一人が静かに記録を取る。
空気が変わる。
学生たちの表情が引き締まる。
ただの大会ではない。
評価される場。
将来が決まる場。
教師が低く言う。
「本戦は」
少し間を置く。
「実戦評価だ」
ざわめきが広がる。
「騎士団推薦…」
「研究所推薦…」
「ここで決まるのか…」
別の教師が続ける。
「予選は能力測定」
「本戦は適性評価」
「戦闘能力・判断力・応用力を総合的に見る」
つまり、
ここからが本番。
観客席も静かになる。
中央の結界が強く光る。
本戦用術式、完全起動。
その時。
レティシアの視界が、
ほんの一瞬だけ揺れた。
赤い表示。
誰にも見えない文字。
BATTLE EVENT READY
EVALUATION MODE
すぐ消える。
レティシアはわずかに目を細める。
(やっぱり……)
胸の奥で思う。
予選。
順位。
トーナメント。
そして戦闘。
全部流れがある。
全部順番がある。
(能力披露イベント…)
まるで、
誰かが用意した舞台みたいに。
試験官の声が響く。
「第一試合を開始する」
鐘が鳴る。
本戦が動き出す。
そしてレティシアは、
静かに結界を見つめていた。
(次は……戦闘)