悪役令嬢は世界のバグを修正する
数試合が終わり、
トーナメント表の光がゆっくりと書き換わる。
空中に浮かぶ表示。
勝者の名前が線で繋がれ、
次の対戦が決まっていく。
観客席のざわめきも、
次第に落ち着いてきていた。
順当な勝敗。
予想通りの展開。
誰もが、
次に来る名前を待っている。
試験官が杖を上げた。
掲示が光る。
「次の試合」
空気が変わる。
表示が切り替わる。
対戦カード
レティシア・アルヴェルン
VS
ディオン・グレイス
ざわめきが一気に広がった。
「出た!」
「レティシア様だ!」
「相手ディオンか!?」
学生たちがざわつく。
「いきなり強敵だぞ」
「去年ベスト4だろ」
「戦闘特化のやつだ」
ディオン・グレイス。
上級貴族。
戦闘魔法専門。
魔法剣と攻撃術式を組み合わせる実戦型。
本戦常連。
騎士団志望。
教師席でも小さな声が上がる。
「面白いカードだな」
「いきなり上位同士か」
「評価には丁度いい」
観客席の騎士団関係者が腕を組む。
「ディオンは実戦向きだ」
研究所の観察官も視線を向ける。
「満点通過の令嬢か」
「戦闘能力を見るにはいい」
列の中。
カイルが掲示を見ている。
ディオンの名前。
そして、
その上にある名前。
レティシア・アルヴェルン。
カイルが小さく息を吐く。
「いきなりそこか」
口元がわずかに上がる。
「いいな」
強い相手同士の試合。
見たい。
純粋にそう思っている。
観客席。
セシリアは静かに座っていた。
掲示を見る。
妹の名前。
相手の名前。
そして、
くすっと笑う。
隣の令嬢が聞く。
「心配じゃないんですか?」
セシリアは肩をすくめる。
「全然」
楽しそうに答える。
「だってあの子」
少し目を細める。
「強い相手の方が楽そうだもの」
演習場の端。
レティシアは掲示を見ている。
自分の名前。
対戦相手。
トーナメントの線。
どこかで見た構図。
どこかで知っている流れ。
胸の奥に、
静かな違和感が広がる。
その瞬間。
視界の端が揺れた。
赤い文字。
MATCH SET
DIFFICULTY LEVEL ↑
すぐ消える。
レティシアはわずかに目を細める。
(やっぱり……)
心の中で思う。
強敵。
初戦。
観客が期待するカード。
まるで、
用意された展開。
(強敵イベント…)
遠くで試験官の声が響く。
「両者、前へ」
結界が光る。
次の戦闘が始まる。
レティシアはゆっくり歩き出した。
静かに。
迷いなく。
まるで、
次に起きることを知っているみたいに。