悪役令嬢は世界のバグを修正する
結界の光が強くなる。
中央のフィールドに、
二つの魔法陣が展開された。
試験官の声が響く。
「次の試合」
「レティシア・アルヴェルン」
「ディオン・グレイス」
観客席がざわめく。
結界の左側に、
レティシアが歩いて入る。
いつも通りの表情。
落ち着いた足取り。
緊張も、
気負いもない。
まるで散歩でもするような歩き方だった。
その反対側。
もう一つの魔法陣が光る。
そこに現れたのは、
長身の男子学生だった。
黒に近い紺色の制服。
細身だが鍛えられている。
腰には魔法剣。
腕には補助術式の刻印具。
ディオン・グレイス。
上級貴族。
戦闘魔法特化。
去年の大会ベスト4。
実戦評価が高い学生。
観客席から声が上がる。
「ディオンだ」
「これは強いぞ」
「いきなり本命級だ」
ディオンは結界の中央まで歩き、
レティシアを見た。
少しだけ眉を上げる。
そして小さく笑った。
「……へえ」
軽い声。
だがどこか棘がある。
「満点通過の公爵令嬢か」
周囲が静かになる。
ディオンは肩を回しながら続けた。
「噂は聞いてる」
「理論はすごいらしいな」
少し間を置く。
そして、
はっきりと言った。
「だが」
目が鋭くなる。
「実戦は別だ」
観客席がざわつく。
「言ったな…」
「ディオンらしい」
「本気だ」
ディオンは魔法剣を軽く抜く。
刃に魔力が流れる。
青い光。
戦闘用術式が起動する。
「満点だか知らんが」
レティシアをまっすぐ見る。
「戦えば分かる」
「どっちが上か」
挑発でもなく、
怒りでもない。
ただの自信。
自分が強いと知っている者の声。
観客席の騎士団関係者が頷く。
「いいな」
「実戦型だ」
研究所の観察官も記録を取る。
「戦闘適性高」
「令嬢の反応を見る」
結界の外。
カイルが腕を組んで見ている。
目は真剣。
「ディオン相手か…」
小さく呟く。
「どうする」
観客席。
セシリアが静かに笑っている。
隣の令嬢が緊張した声で言う。
「大丈夫ですか…?」
セシリアは楽しそうに答える。
「大丈夫よ」
少し目を細める。
「むしろちょうどいいわ」
結界の中央。
レティシアは動かない。
ディオンの言葉を聞いても、
表情は変わらない。
ただ静かに相手を見ている。
その視線は、
相手を見ているようで、
どこか違うものを見ていた。
魔力の流れ。
術式の構造。
結界の層。
全部が見えている。
その瞬間。
視界の端に赤い文字。
ENEMY TYPE
COMBAT SPECIALIST
DIFFICULTY HIGH
すぐ消える。
レティシアはわずかに目を細める。
(やっぱり……)
胸の奥で思う。
(強敵イベント)
試験官の声が響く。
「位置につけ」
結界が強く光る。
空気が張り詰める。
試験官が手を上げた。
「――開始」