悪役令嬢は世界のバグを修正する
試験官が手を振り下ろす。
「――開始!」
同時に、
結界が強く光った。
多重術式が起動し、
戦闘用フィールドが完全展開される。
空気が変わる。
ただの演習ではない。
本戦。
実戦評価。
観客席も静まり返る。
次の瞬間、
動いたのはディオンだった。
踏み込みが速い。
床を蹴った瞬間、
身体強化の魔法陣が足元に浮かぶ。
一気に距離を取る。
同時に右手を振る。
「フレイム!」
火球が三つ。
連続生成。
間を置かず放たれる。
観客席から声が上がる。
「速い!」
「詠唱短い!」
「実戦型だ!」
火球が直線で飛ぶ。
さらに、
左手が動く。
「サンダ!」
雷撃が走る。
空中に光の線。
火と雷の同時攻撃。
さらに。
足元の魔法陣が回転する。
「エアカッター!」
風刃が放たれる。
三方向からの連続攻撃。
火。
雷。
風。
間を置かない。
躊躇もない。
完全に戦闘慣れしている動き。
観客席がどよめく。
「早すぎる!」
「初手から全開だ!」
「これはきついぞ!」
教師も頷く。
「いい判断だ」
「相手に考える時間を与えない」
騎士団関係者が低く言う。
「実戦なら正解だ」
研究所の観察官も記録する。
「攻撃速度 上」
「判断 優秀」
火球が迫る。
雷が走る。
風刃が結界を裂く。
普通の学生なら、
ここで防御に入る。
回避する。
詠唱する。
焦る。
だが――
レティシアは動かなかった。
一歩も動かない。
杖も構えない。
詠唱もしない。
ただ立っている。
観客席がざわつく。
「動け!」
「何してる!?」
「避けろ!」
カイルが眉をひそめる。
「……違うな」
小さく呟く。
「見てる」
観客席。
セシリアは静かに笑っている。
「そうね」
小さく言う。
「あの子、見てるわ」
結界の中央。
レティシアの視線は、
攻撃を見ていなかった。
火球の形。
雷の軌道。
風刃の回転。
その奥。
魔力の流れ。
術式の線。
構造。
魔法陣の組み方。
全部が見えている。
世界が少しだけ変わる。
炎が、
線に見える。
雷が、
式に見える。
風が、
構造に見える。
重なったルーンのような形。
組み上げられた魔法コード。
その瞬間。
視界の端に赤い表示。
STRUCTURE DETECTED
MAGIC FORMAT ANALYSIS
すぐ消える。
レティシアの瞳が、
ほんの少しだけ細くなる。
(……見える)
火球の弱点。
雷の接続点。
風刃の制御核。
全部分かる。
胸の奥で静かに思う。
(これ……)
ほんのわずかに息を吐く。
(壊せる)
火球が目前まで迫る。
観客が息を呑む。
誰もが思った。
当たる。
だが次の瞬間、
レティシアの指が、
ほんの少しだけ動いた。