悪役令嬢は世界のバグを修正する
迫ってくる火球。
走る雷。
空気を裂く風刃。
普通なら、
回避か、防御か、
どちらかを選ぶしかない距離。
だがレティシアは動かない。
その瞳は、
攻撃そのものを見ていなかった。
もっと奥。
もっと内側。
魔法の中身を見ている。
その瞬間、
世界が少しだけ歪んだ。
炎の形が崩れる。
雷の光がほどける。
風の流れが止まる。
代わりに見えたのは、
線だった。
細い光の線。
幾重にも重なった線。
絡み合い、
組み合わさり、
形を作っている。
火球は、
赤い線の球体。
雷は、
鋭い角度の式。
風刃は、
回転する環状構造。
魔法が、
文字に見える。
いや。
文字ではない。
記号。
式。
構造。
まるで、
古代ルーンの石板を見た時と同じ。
あの時感じた違和感。
言語ではない。
設計図。
組み方。
配置。
意味ではなく、
構造。
レティシアの思考が静かに繋がる。
(やっぱり……)
火球の中心を見る。
そこにある核。
魔力の結節点。
雷の分岐を見る。
制御の接続点。
風刃の回転を見る。
維持術式の支柱。
全部見える。
全部分かる。
胸の奥で、
言葉が浮かぶ。
(魔法じゃない)
ほんのわずかに目を細める。
(コードだ)
世界が、
組み上げられている。
魔法が、
書かれている。
術式が、
並べられている。
まるで、
プログラムみたいに。
その瞬間、
視界の端に赤い表示が走る。
STRUCTURE DETECTED
MAGIC CODE ANALYSIS
WEAK POINT FOUND
すぐ消える。
誰にも見えない。
レティシアだけが見ている。
火球が目前。
雷が迫る。
風刃が回る。
だが怖くない。
壊し方が分かるから。
小さく、
誰にも聞こえない声で呟く。
「弱点が……見える」
指先をわずかに動かす。
魔力をほんの少しだけ流す。
大きな力はいらない。
正しい場所に、
正しい量を、
触れるだけでいい。
胸の奥で確信する。
(世界のルールが見えてる)
火球が触れる直前。
雷が落ちる直前。
風刃が届く直前。
レティシアの指が、
静かに動いた。