悪役令嬢は世界のバグを修正する
巨大な火炎が落ちてくる。
空を覆うほどの炎。
結界の内側が、
真っ赤に染まる。
観客席から悲鳴が上がる。
「直撃する!」
「避けろ!」
「無理だ!」
だが。
レティシアは動かない。
ただ、
炎を見上げていた。
その瞬間。
世界が、
わずかに遅くなる。
音が遠ざかる。
歓声が伸びる。
風の音が消える。
時間が、
引き伸ばされたように揺らぐ。
レティシアの視界が変わる。
炎が、
炎に見えなくなる。
赤い塊が、
ほどけていく。
線になる。
細い光の線。
重なり合う線。
交差する線。
そこに文字が浮かぶ。
見たことのない記号。
ルーン。
式。
配列。
炎の魔法陣が、
展開されたまま止まっている。
その一つ一つが、
意味を持って見える。
魔力の流れ。
接続点。
制御の節。
回路のような構造。
レティシアの目が細くなる。
(……やっぱり)
炎ではない。
魔法でもない。
構造。
設計。
コード。
その瞬間、
視界の奥に赤い文字が走る。
一瞬だけ。
SYSTEM
STRUCTURE ANALYSIS
すぐ消える。
だがもう、
見えている。
炎の中身が。
術式の中身が。
カイルの魔法が、
完全に分解されて見える。
レティシアの思考が静かに動く。
(出力は高い)
線を追う。
(多層構造)
接続を見る。
(制御も丁寧)
流れを読む。
(でも……)
一点で止まる。
わずかな歪み。
接続のズレ。
魔力の流れが、
ほんの少しだけ乱れている場所。
普通なら気づかない。
見えない。
感じない。
だが今は違う。
そこだけ、
色が違って見える。
レティシアの心の声。
(ここ……)
炎の中心。
術式の接続点。
(接続が歪んでる)
さらに目を細める。
(制御が遅れてる)
魔力の循環が、
ほんの一瞬だけ詰まっている。
そこが、
全体を支えている。
(ここが……弱い)
炎が落ちてくる。
普通なら防げない。
だが。
構造が見えている。
ルールが見えている。
世界の仕組みが見えている。
レティシアは小さく息を吐く。
心の中で思う。
(魔法って……)
静かな理解。
(コードみたい)
炎の中に、
線が走っている。
式が並んでいる。
配置が決まっている。
そして分かる。
(なら)
指がわずかに動く。
(直せる)
目が細くなる。
(壊せる)
炎が目前まで迫る。
観客席が叫ぶ。
教師が立ち上がる。
カイルが歯を食いしばる。
その中心で、
レティシアだけが静かだった。
世界のルールを、
見ている者の目で。