悪役令嬢は世界のバグを修正する
歓声が止まらない。
観客席は総立ちだった。
「すげえええ!!」
「また壊したぞ!」
「火炎魔法消えたぞ!?」
「何やったんだ今!?」
ざわめきは収まらない。
試合が終わったはずなのに、
誰も席に座ろうとしない。
教師席でも混乱が続いていた。
一人の教師が記録板を見ながら言う。
「判定確認……」
「魔法構造干渉……検出」
別の教師が顔を上げる。
「やはりか」
アルドリック教授が低く言った。
「確定だ」
少し間を置いて、
はっきりと告げる。
「構造干渉」
周囲の教師が息を呑む。
「学生が……?」
「ありえん……」
「古代魔法でもここまで精密じゃない」
研究所席。
観察官たちが小声で会話している。
「解析結果」
「干渉位置一点」
「核のみ破壊」
「効率異常」
一人が静かに言う。
「危険度評価を上げろ」
別の観察官が頷く。
「王宮報告対象だ」
騎士団席。
隊長格の男が腕を組んでいる。
視線はフィールド中央。
「どう見る」
隣の騎士が答える。
「実戦級です」
少し間。
「いや」
さらに低い声。
「それ以上だ」
隊長が言う。
「戦場で使える」
「しかも対魔術特化だ」
短く結論。
「欲しいな」
フィールド中央。
カイルはまだ動けずにいた。
剣を拾うこともできない。
ただ、
レティシアを見ている。
悔しさが、
ゆっくりと込み上げる。
拳を握る。
震えている。
「……くそ」
小さな声。
誰にも聞こえない。
「……届かねえ」
視線を落とす。
完全敗北だった。
観客席。
セシリアは座ったまま、
静かに笑っていた。
隣の令嬢が言う。
「すごすぎません……?」
セシリアは肩をすくめる。
「そうね」
少しだけ誇らしそうに、
だがいつもの調子で言う。
「あの子、普通じゃないのよ」
フィールドの端。
レティシアは一人で立っている。
歓声も、
ざわめきも、
まるで遠くの音のようだった。
視界の奥が、
わずかに揺れる。
赤い点。
ノイズ。
一瞬だけ文字が走る。
SYSTEM
MATCH CLEAR
すぐ消える。
レティシアの目が細くなる。
心の中で呟く。
(やっぱり……)
静かな確信。
(魔法は……)
視線を空に向ける。
結界の上。
青空のはずの場所に、
ほんの一瞬だけ、
赤いちらつきが走る。
(プログラムみたい)
思考が止まらない。
炎も、
風も、
術式も、
全部。
構造で出来ている。
ルールで動いている。
コードみたいに。
レティシアの胸の奥で、
小さな理解が形になる。
(なら……)
空を見たまま、
小さく思う。
(書き換えられる)
その瞬間。
空の奥に、
赤いノイズが走った。
一瞬だけ、
はっきりと文字が見える。
REWRITE POSSIBLE
すぐ消える。
誰も気づかない。
レティシアだけが、
静かに目を細める。
物語は、
次の段階へ進もうとしていた。