悪役令嬢は世界のバグを修正する
大演習場・待機エリア。
決勝開始まで、まだ少し時間がある。
フィールドの中央では結界術師たちが最終調整をしていた。
青白い光が柱の間を走る。
結界強度――最大。
それを見ながら、
教師席では小さな会話が交わされていた。
一人の教師が資料をめくる。
「レオン・クラウディア……か」
別の教師が頷く。
「ああ」
「騎士家の嫡男だ」
資料には簡潔な評価が並んでいる。
魔力量 上位
制御 上位
耐久 最高評価
実戦適性 特A
教師が低く言う。
「近接魔法特化」
「強化魔法、防御魔法、体術」
「完全に騎士型だな」
アルドリック教授が口を開く。
「理論より実戦」
「術式より身体」
少し間を置く。
「実戦能力なら」
視線をフィールドに向ける。
「学園一だ」
周囲の教師が黙る。
その評価に、
誰も反論しなかった。
観客席の上段。
騎士団関係者の席。
鎧を着た男たちが腕を組んで座っている。
その中の一人が笑った。
「レオンか」
隣の騎士が頷く。
「あいつは現場向きだ」
「考える前に動ける」
別の騎士が言う。
「魔物討伐ならトップだろうな」
隊長格の男がゆっくり口を開く。
「対レティシアはどう見る」
少し沈黙。
一人が答える。
「真逆だ」
「完全に」
別の騎士が続ける。
「レティシアは理論型」
「解析型」
「干渉型」
そしてレオンは、
短く。
「突破型だ」
隊長が小さく笑う。
「いいな」
「近接 vs 理論」
「分かりやすい」
目を細める。
「だからこそ」
低い声。
「本物が分かる」
その頃。
フィールドの端。
レオン・クラウディアは一人で立っていた。
長身。
鍛えられた体。
腰には剣。
だが魔法使いの制服。
彼は静かに拳を握る。
手袋がきしむ。
頭の中に浮かぶのは、
さっきの試合。
火炎魔法が消えた瞬間。
構造が崩れた瞬間。
理解できない現象。
レオンの心の中。
(意味分からん)
だが、
すぐに笑う。
「……関係ねえ」
小さく呟く。
「魔法がどうとか」
「構造がどうとか」
拳を握る。
「殴れば終わりだ」
目が鋭くなる。
騎士の目。
迷いがない。
「近づけば勝てる」
「それだけだ」
フィールドの反対側。
レティシアは静かに立っていた。
何も考えていないように見える。
だが、
ほんの少しだけ、
視線がレオンに向く。
強い。
そう感じる。
魔力量ではない。
構造でもない。
別の強さ。
(近い人…)
少しだけ思う。
(解析しにくそう)
その瞬間。
視界の奥が揺れる。
赤いノイズ。
ほんの一瞬。
SYSTEM MATCH TYPE
CLOSE COMBAT
消える。
レティシアは目を細める。
(……また)
胸の奥に、
小さな違和感。
だが、
すぐに静かになる。
フィールド中央。
結界が完全に起動する。
教師の声が響く。
「決勝戦を開始する準備を整えよ」
観客席がざわめく。
近接最強。
理論最強。
真逆の二人。
最終戦が、
始まろうとしていた。