悪役令嬢は世界のバグを修正する
控室。
石造りの壁に囲まれた静かな部屋。
外の歓声が、かすかに響いている。
決勝まで、あと少し。
部屋の中央で、
レオン・クラウディアは一人立っていた。
手には剣。
ゆっくりと握り直す。
革の手袋がきしむ音がした。
呼吸は落ち着いている。
だが、
頭の中にはさっきの試合が残っていた。
準決勝。
巨大火炎魔法。
完璧な詠唱。
完成した術式。
――それが、
崩れた。
一瞬で。
構造が壊れた。
干渉された。
レオンは眉をしかめる。
(……意味分からん)
小さく息を吐く。
魔法が消えた理由が分からない。
術式が崩れた理由も分からない。
理解できない戦い方。
理屈が通らない勝ち方。
壁にもたれかかる。
目を閉じる。
しばらく沈黙。
そして、
ふっと笑った。
「……は」
小さな笑い。
自分で自分を馬鹿にするような声。
「考えても分かるわけねえか」
顔を上げる。
目に迷いはない。
「魔法がどうとか」
「構造がどうとか」
剣を軽く振る。
空気が切れる音。
「関係ねえ」
一歩踏み出す。
足音が床に響く。
「近づけばいい」
拳を握る。
「殴れば勝ちだ」
騎士の戦い方。
正面から行く。
避けない。
迷わない。
理論も、
解析も、
干渉も、
全部関係ない。
届けば終わる。
レオンは剣を肩に乗せる。
口の端が少し上がる。
「結局」
「最後は体だろ」
小さく笑う。
その時。
控室の扉が少し開く。
騎士団の男が顔を出す。
「準備はいいか」
レオンは振り向かない。
「ああ」
短く答える。
騎士が言う。
「相手は特殊だぞ」
少し間。
「分かってるな」
レオンは鼻で笑う。
「分かってるよ」
振り向く。
目が鋭い。
「だから面白いんだろ」
騎士が少し笑う。
「……現場向きだな」
レオンが肩をすくめる。
「理屈は苦手なんだ」
剣を握る。
ぎゅっと。
「でもな」
低い声。
「真正面なら負けねえ」
控室の外で歓声が大きくなる。
決勝の準備が進んでいる。
レオンは扉へ歩く。
足取りは重くない。
むしろ軽い。
迷いがないからだ。
扉の前で止まる。
一度だけ目を閉じる。
頭の中に浮かぶ。
火炎崩壊。
構造干渉。
意味不明の勝利。
そして、
ゆっくり目を開ける。
「……だからどうした」
小さく呟く。
「壊すなら」
口元が笑う。
「殴られる前に殴る」
扉を開ける。
光が差し込む。
理論 vs 実戦。
構造 vs 肉体。
システム vs 騎士。
決勝が、
始まろうとしていた。