悪役令嬢は世界のバグを修正する
歓声から少し離れた場所。
大演習場の外れ。
結界柱の影。
人の声が少し遠くなる位置まで歩いて、
レティシアは足を止めた。
まだ大会は終わったばかりだ。
学生たちは興奮したまま騒いでいる。
教師も、
騎士団も、
研究所も、
まだ動いている。
世界は普通に続いている。
何も変わらない。
……はずだった。
レティシアは小さく息を吐く。
胸の奥のざわつきが消えない。
(……変)
理由は分からない。
体調が悪いわけでもない。
疲れているわけでもない。
でも、
何かが引っかかっている。
視線を落とす。
手を見る。
さっき、
触った。
あのルーン。
あの線。
あの構造。
思い出した瞬間だった。
視界の奥が、
赤く点滅した。
ピッ――
小さな電子音のような感覚。
目の前の空間に、
文字が浮かぶ。
赤い表示。
今までよりはっきり。
SYSTEM
文字が滲む。
次の行が現れる。
UNKNOWN MAGIC DETECTED
レティシアの呼吸が止まる。
さらに表示。
SYSTEM INTERFERENCE
一拍。
WARNING
胸が強く鳴る。
今まで見てきた表示とは違う。
これまでの表示は、
EVENT
SCORE
CLEAR
進行。
結果。
終了。
そういうものだった。
でもこれは違う。
警告。
異常。
干渉。
まるで、
世界の側が反応している。
レティシアの指先がわずかに震える。
(……何)
表示は止まらない。
さらに文字が増える。
赤い行。
RUNE ACTIVATION CONFIRMED
その瞬間、
背筋が冷たくなった。
心臓が跳ねる。
(……ルーン)
口には出さない。
でも分かる。
さっき見た。
触った。
あの文字。
あの構造。
あれのことだ。
表示が点滅する。
WARNING
WARNING
SYSTEM INTERFERENCE
空気が少しだけ重くなる。
音が遠くなる。
レティシアは周囲を見る。
誰も気づいていない。
学生は笑っている。
教師は話している。
騎士団は評価を続けている。
研究所は記録を取っている。
普通の世界。
普通の時間。
普通の大会の終わり。
なのに、
自分の前だけ違う。
赤い表示が浮かび続けている。
レティシアは小さく呟く。
(何…これ)
表示が一瞬揺れる。
ノイズが走る。
文字が歪む。
SYSTEM
……
……
そして、
一瞬だけ、
別の行が見えた。
ACCESS CHECK
すぐ消える。
元の警告表示に戻る。
レティシアの心が強くざわつく。
(……世界が)
ゆっくり思う。
(気づいてる)