悪役令嬢は世界のバグを修正する
王立アルカディア学園・大演習場。
決勝戦の余韻は、
まだ空気の中に残っていた。
歓声が続いている。
「すげえええ!!」
「満点優勝だぞ!!」
「最後の結界なんだったんだ!?」
「見たことない魔法だろ!」
学生たちが興奮したまま話し続けている。
観客席はまだざわついていた。
貴族席でも声が飛び交う。
「アルヴェルン公爵家の娘か」
「噂以上だな」
「王宮に呼ばれるぞ」
「いや…あれは少し危険だ」
別の貴族が小さく言う。
「……強すぎる」
騎士団席。
数人が立ったままフィールドを見ている。
隊長が腕を組む。
「評価は変わらん」
副官が答える。
「戦闘能力、最上位」
「実戦適性、高」
「制御能力…異常」
隊長が目を細める。
「欲しいな」
短く言う。
「だが」
少し間を置く。
「扱えるかは別だ」
研究所席。
観察官たちがまだ記録を確認している。
水晶板に残る術式ログ。
何度見ても一致しない。
一人が言う。
「詠唱なし」
別の者。
「魔法陣なし」
さらに別の者。
「魔力反応不明」
沈黙。
上席の研究官が静かに言う。
「分類不能だ」
誰も否定しない。
「報告先を変更する」
一拍。
「王宮直属へ提出」
周囲の空気が変わる。
ただの大会ではなくなる。
フィールド中央。
表彰台の周囲では、
まだ学生たちが集まっている。
「レティシア様!」
「優勝おめでとうございます!」
「すごかったです!」
「どうやったんですか!?」
声が飛ぶ。
笑顔。
興奮。
称賛。
祝福。
世界は普通に進んでいる。
いつもの大会の終わり。
いつもの勝者。
いつもの歓声。
その中心に、
レティシア・アルヴェルンは立っていた。
だが。
彼女だけが、
少し離れて見えていた。
賞章を受け取ったまま、
静かに立っている。
笑っていないわけではない。
だが、
喜んでもいない。
ただ、
周囲を見ている。
学生。
教師。
騎士。
研究所。
観客席。
全部、
いつも通り。
何もおかしくない。
なのに。
胸の奥がざわつく。
(……おかしい)
自分だけが、
少しずれている気がする。
音が遠い。
歓声が遠い。
色が少しだけ薄い。
まるで、
一歩だけ別の場所に立っているみたいだった。
ゆっくり息を吐く。
目を閉じる。
開く。
同じ光景。
変わらない。
それでも。
違和感が消えない。
(大会は終わった)
そう思う。
(優勝した)
それも分かっている。
でも。
心の奥で、
別の声がする。
(本当に?)
レティシアは少しだけ顔を上げる。
空を見る。
青空。
雲。
何もない。
……はずだった。
ほんの一瞬。
視界の端が、
赤く点滅した気がした。