悪役令嬢は世界のバグを修正する
大演習場。
まだ歓声が止まらない。
「レティシア様!!」
「満点優勝だ!!」
「何だったんだ最後の結界!!」
「意味分からんけどすげえ!!」
観客席は総立ちだった。
学生たちは興奮したまま話し続けている。
教師たちも席を立っているが、
表情は喜びだけではない。
戸惑い。
驚き。
そして、
理解できないものを見た顔。
中央フィールド。
表彰台が用意される。
審判教師が前に出る。
「本年度」
「王立魔法競技大会」
「優勝者を発表する」
ざわめきが静まる。
誰もが分かっている。
だが、
言葉を待つ。
教師が宣言する。
「優勝――」
一拍。
「レティシア・アルヴェルン!」
歓声が爆発した。
「うおおおおお!!」
「公爵令嬢!!」
「満点優勝!!」
「大会記録更新!!」
レティシアが呼ばれる。
ゆっくり歩く。
いつも通りの歩き方。
誇らしさも、
緊張も、
ほとんどない。
ただ静か。
表彰台の前で止まる。
教師が賞章を渡す。
「……見事だった」
声は低い。
どこか複雑。
レティシアは小さく頭を下げる。
「ありがとうございます」
教師は少しだけ迷う。
そして、
小さく言う。
「……あれは」
言いかけて、
やめる。
何も聞けない。
理解できないから。
騎士団席。
隊長が腕を組んだまま言う。
「評価は?」
隣の騎士が答える。
「戦闘能力…S以上」
「実戦適性…不明」
「危険度…高」
隊長が頷く。
「だろうな」
目を細める。
「だが欲しい」
短く。
「戦場なら最強だ」
研究所席。
観察官が書類を閉じる。
「報告書に記載」
別の者が聞く。
「分類は?」
観察官は少しだけ考える。
そして言う。
「未確認術式使用者」
一拍。
「危険度指定」
さらに小さく。
「監視対象」
誰も反論しない。
フィールド中央。
表彰が終わる。
歓声はまだ続いている。
だが、
レティシアには遠く聞こえる。
一人だけ、
少し離れた場所へ歩く。
誰も止めない。
誰も気づかない。
結界柱の近く。
空が見える場所。
レティシアは立ち止まる。
ゆっくり空を見る。
青空。
雲。
普通の空。
……のはずだった。
一瞬。
視界が揺れる。
空間に、
線が浮かぶ。
ルーン。
文字。
透明な構造。
世界の奥にあるもの。
すぐ消える。
代わりに、
赤い表示が浮かぶ。
SYSTEM
ACCESS LEVEL UP
REWRITE ENABLED
レティシアの呼吸が止まる。
誰も見えていない。
自分だけ。
胸の奥がざわつく。
手を見る。
指先を見る。
さっき触れた場所を思い出す。
ルーン。
構造。
線。
配置。
書き換え。
小さく思う。
(この世界…)
空を見る。
静かに。
(触れる)
風が吹く。
鐘の音が遠くで鳴る。
大会終了の鐘。
ゴーン……
ゴーン……
その音の中で、
レティシアは小さく呟く。
(変えられる)
視界の奥で、
赤い点が一度だけ光った。
SYSTEM READY
すぐ消える。
鐘の音が続く。
世界は何も変わらない。
……ように見える。
だが、
何かが始まっている。
次章へ――
世界の秘密編。