悪役令嬢は世界のバグを修正する
フィールド中央。
透明な結界が、
二人の間に存在していた。
いや、
間ではない。
周囲すべてを覆っている。
半球状の巨大結界。
多重構造。
高密度。
普通の防御魔法ではない。
結界の内側に、
レオンとレティシアがいる。
レオンは剣を構えたまま、
目を細める。
「……なんだこれ」
一歩踏み出す。
剣を振る。
ガン!!
硬い音。
刃が弾かれる。
結界が揺れる。
だが、
傷一つ付かない。
観客席がざわめく。
「弾かれた!」
「結界強すぎる!」
「誰の魔法だ!?」
レオンがもう一度振る。
今度は強化魔法を乗せる。
身体強化。
腕力増幅。
全力。
叩きつける。
ドォン!!
衝撃が広がる。
結界が光る。
だが、
壊れない。
レオンの眉が動く。
「……はは」
小さく笑う。
次は魔法。
手をかざす。
強化術式。
衝撃魔法。
発動。
だが、
魔力が広がらない。
術式が途中で止まる。
消える。
レオンの目が変わる。
「……おい」
もう一度。
詠唱。
魔法陣。
展開。
だが、
発動しない。
魔力が流れない。
結界の内側で、
すべてが遮断されている。
研究所席。
観察官が震えた声で言う。
「魔力遮断……?」
別の者が首を振る。
「違う」
「干渉されている」
「空間ごと制御されている」
教師席。
アルドリックが立ち上がる。
「……ありえん」
低い声。
「結界の中で」
「魔法が使えない……?」
騎士団席。
隊長が腕を組む。
目を細める。
「閉じ込められたな」
隣の騎士が呟く。
「突破できない…」
フィールド。
レオンが剣を下ろす。
結界を見上げる。
手を伸ばす。
触れる。
透明な壁。
びくともしない。
ゆっくり振り返る。
レティシアを見る。
レティシアは動いていない。
ただ立っている。
自分でも分かっていない顔。
レオンがしばらく見つめる。
沈黙。
そして、
ふっと笑う。
「……は」
肩の力が抜ける。
剣を軽く回す。
そして、
ゆっくり下ろす。
地面に突き立てる。
ガン、と音。
観客席がざわつく。
「え…?」
「まさか…」
レオンが言う。
はっきり。
迷いなく。
「……負けだ」
静かな声。
だが、
演習場中に響いた。
教師が目を見開く。
「降参か!?」
レオンは頷く。
「攻撃できねえ」
結界を見る。
「魔法も使えねえ」
レティシアを見る。
少し笑う。
悔しさもある。
だが、
納得もある。
「どうしようもねえ」
剣から手を離す。
両手を上げる。
「参った」
審判教師が前に出る。
結界を確認。
安全確認。
魔力反応確認。
そして、
高く声を上げる。
「勝負あり!」
一拍。
空気が止まる。
次の瞬間。
「勝者――」
教師が叫ぶ。
「レティシア・アルヴェルン!!」
観客席が爆発した。
「うおおおお!!」
「また意味分からん!!」
「今の何だ!!」
「誰の魔法だよ!!」
「結界おかしいだろ!!」
学生が叫ぶ。
教師が立つ。
貴族がざわめく。
騎士団席は静かだった。
誰も笑っていない。
隊長が低く言う。
「……見たか」
隣の騎士が頷く。
「ああ」
短い言葉。
「危険だな」
研究所席。
誰も喋らない。
記録係だけが震える手で書いている。
観察官が小さく言う。
「確定だ」
誰かが聞き返す。
「何が」
観察官は目を離さない。
フィールドを見たまま。
「……未知領域」
小さく。
「危険人物」
フィールド中央。
レティシアは立っている。
歓声が聞こえない。
ただ、
視界の奥に赤い文字が浮かぶ。
SYSTEM
FINAL CLEAR
REWRITE ENABLED
一瞬で消える。
胸の奥で、
小さく思う。
(……やっぱり)
ゆっくり空を見る。
空間が、
ほんの少しだけ歪んで見えた。