悪役令嬢は世界のバグを修正する
レオンの剣が迫る。
強化魔法を重ねた一撃。
空気が裂ける。
結界が震える。
観客席から悲鳴に近い声。
「当たる!!」
「避けろ!!」
レオンの目は迷っていない。
完全に捉えている。
距離。
間合い。
軌道。
この一撃で終わる。
振り下ろす。
その瞬間。
レティシアの視界の奥に、
またそれが見えた。
空間に浮かぶ文字。
ルーン。
線。
式。
構造。
魔法ではない。
もっと深い層。
世界の骨組み。
SYSTEM
CORE STRUCTURE DETECTED
文字が赤く点滅する。
時間が遅くなる。
剣の軌道が、
ゆっくり見える。
砂が浮いている。
空気が止まっている。
レティシアの心臓だけが動いている。
(危ない)
そう思った瞬間だった。
考える前に、
体が動いた。
右手が上がる。
触れる。
何に触れたのか分からない。
だが、
確かに触れた。
空間に浮かぶルーン。
光の線。
透明な文字列。
指先が、
そこに重なる。
ピリ、と音がした気がした。
世界が震える。
レティシアの目が開く。
(……あ)
線が動いた。
ほんの少し。
配置がずれる。
つながりが変わる。
式が書き換わる。
レティシアは理解していない。
理解しようともしていない。
ただ、
危ないと思ったから。
触っただけ。
その瞬間。
空間が歪んだ。
ゴン、と重い音。
レオンの剣が振り下ろされる。
だが――
届かない。
二人の間に、
光が走る。
透明な壁が出現する。
いや、
壁ではない。
結界。
巨大な結界。
一瞬で生成された。
詠唱なし。
術式なし。
展開動作なし。
突然、
そこに存在した。
剣が弾かれる。
衝撃が結界全体に広がる。
ドォン!!
演習場が揺れる。
観客席がざわめく。
「何!?」
「今の何だ!?」
「結界!?」
教師席。
一人が立ち上がる。
「誰だ!?」
別の教師が叫ぶ。
「今の魔法は誰のだ!!」
結界はまだある。
巨大。
高密度。
多重構造。
見たことのない術式。
アルドリック教授が目を見開く。
「……詠唱がない」
震える声。
「術式展開もない」
「なのに発動している」
研究所席。
観察官が叫ぶ。
「記録しろ!!」
「未知術式発生!!」
別の者が慌てて書き込む。
「構造不明!」
「魔法陣確認不能!」
「発動源不明!」
騎士団席でもざわめき。
「誰が張った!?」
「教師か!?」
隊長が低く言う。
「違う」
目を細める。
フィールドを見る。
「……あの子だ」
フィールド中央。
レオンが後ろに跳ぶ。
剣を構える。
驚いている。
だがすぐに目を細める。
「……今の」
結界の向こう。
レティシアは立っている。
手を少し上げたまま。
自分でも分かっていない顔。
ゆっくり手を見る。
指先が震えている。
視界の奥。
赤い文字。
SYSTEM
REWRITE SUCCESS
一瞬で消える。
レティシアの心が揺れる。
(……今)
小さく思う。
(触った)
胸の奥がざわつく。
怖い。
でも、
確信がある。
(書き換えた)