悪役令嬢は世界のバグを修正する
フィールド中央。
剣が唸る。
レオンの連撃は止まらなかった。
身体強化を重ねた動きは、
もはや魔法戦というより、
戦場の剣士そのものだった。
踏み込み。
斬撃。
衝撃波。
魔力をまとった刃が、
空気ごと切り裂く。
結界が震える。
ドン、と重い音が響く。
観客席から声が上がる。
「結界揺れてるぞ!」
「威力おかしい!」
「決勝レベルじゃない!」
レオンがさらに踏み込む。
距離を詰める。
逃がさない。
剣が振り下ろされる。
レティシアは風を流す。
逸らす。
だが、
押される。
後ろへ。
一歩。
また一歩。
砂が削れる。
足跡が深く残る。
教師席。
「……押している」
「完全に間合いに入ってる」
アルドリックが低く言う。
「近接戦では分が悪い」
騎士団席。
隊長が頷く。
「いいぞレオン」
「そのまま潰せ」
フィールド。
レオンが叫ぶ。
「終わりだ!」
強化魔法をさらに重ねる。
魔力が膨れる。
剣が光る。
振り上げる。
落とす。
その瞬間だった。
レティシアの視界が揺れた。
ぐにゃり、と。
音が遠くなる。
剣の軌道が、
ゆっくりになる。
時間が遅くなる。
風の流れが見える。
砂が浮いている。
レオンの動きが、
線になる。
レティシアの目が開く。
(……え)
世界が変わる。
空間の中に、
何かが浮かんでいる。
光。
線。
文字。
ルーン。
今まで見えていた魔法の構造とは違う。
もっと深い。
もっと大きい。
魔法陣じゃない。
術式でもない。
空間そのものに刻まれている。
透明な文字列。
幾何学。
記号。
繋がり。
世界の骨組み。
レティシアの呼吸が止まる。
(なに…これ)
レオンの剣が迫っている。
だが、
遅い。
すべてが遅い。
空間の奥に、
さらに深い層が見える。
今までよりはっきり。
今までより近い。
その中心に、
赤い表示が浮かぶ。
SYSTEM
文字が滲む。
揺れる。
そして、
はっきり表示される。
CORE STRUCTURE DETECTED
レティシアの目が大きく開く。
心臓が強く跳ねる。
(……これ)
(違う)
魔法じゃない。
術式じゃない。
もっと根本。
もっと下。
(世界…?)
ルーンが浮かぶ。
空間に。
結界の中に。
空の中に。
レオンの剣の軌道の中に。
自分の周りに。
全部つながっている。
全部書かれている。
全部並んでいる。
コードのように。
式のように。
構造のように。
SYSTEM表示が点滅する。
CORE STRUCTURE DETECTED
REWRITE AVAILABLE
レティシアの思考が止まる。
(書き換え……?)
怖い。
理解したくない。
でも、
分かってしまう。
(これ…)
小さく、
心の中で呟く。
(魔法じゃない)
さらに奥を見る。
世界の奥。
一番深いところ。
(世界の…文字)