悪役令嬢は世界のバグを修正する
「――開始」
合図と同時だった。
地面を蹴る音。
次の瞬間、
レオン・クラウディアの姿が消えた。
観客席から驚きの声が上がる。
「速い!!」
「もう行った!?」
身体強化魔法。
筋力強化。
反応速度強化。
加速補助。
騎士型魔法の完成形。
レオンは一直線に距離を詰める。
迷いがない。
様子見もない。
最短距離。
最短時間。
一歩で間合いに入る。
剣が振り下ろされる。
空気が裂けた。
衝撃波が結界を震わせる。
レティシアは後ろに滑る。
風魔法。
足元に風を流す。
回避。
ギリギリ。
観客席がどよめく。
「近い!!」
「もう当たるぞ!」
「接近戦だ!」
レオンは止まらない。
二撃目。
横薙ぎ。
剣に魔力が流れる。
斬撃が風を裂く。
レティシアが手を上げる。
小さな詠唱。
風が渦を巻く。
斬撃が逸れる。
衝撃が結界に当たる。
ドン、と重い音。
教師席で誰かが言う。
「速いな……」
別の教師が眉をひそめる。
「完全に近接戦だ」
アルドリック教授が目を細める。
「……干渉していない」
フィールド。
レオンが踏み込む。
さらに速い。
身体強化を重ねている。
足元に魔法陣が浮かぶ。
加速。
踏み込み。
突き。
空気が爆ぜる。
レティシアが横へ流れる。
風で身体を押す。
避ける。
だが余裕はない。
間合いが近すぎる。
観客席。
「押してる!」
「レオン優勢だ!」
「初めてじゃないか!?」
騎士団席でも声が上がる。
「あいつの間合いだ」
「近づけば勝てる」
隊長が低く言う。
「理論型は接近に弱い」
「解析する時間がない」
研究所席。
観察官が記録を続ける。
「対象、干渉未使用」
「通常防御のみ」
別の者が言う。
「近接戦闘に対応しきれていない」
フィールド。
レオンが剣を振り上げる。
強化魔法を重ねる。
筋肉が軋む音。
魔力が唸る。
振り下ろし。
衝撃波。
地面が砕ける。
レティシアが後退する。
風で押す。
滑るように離れる。
だが、
距離が開かない。
レオンが追う。
速い。
速すぎる。
レティシアの目が細くなる。
(近い…)
(速い…)
(構造が…)
視線が動く。
剣。
魔法陣。
強化術式。
全部見える。
だが、
追いつかない。
(解析……間に合わない)
また剣が来る。
風で逸らす。
衝撃が腕に伝わる。
ほんの少しだけ、
表情が変わる。
教師席。
「……押されてるな」
誰かが呟く。
アルドリックが静かに言う。
「初めてだ」
周囲が見る。
教授は目を離さない。
「レティシアが」
低い声。
「押されている」
フィールド中央。
レオンが笑う。
「どうした」
剣を構える。
息は乱れていない。
「壊さねえのか」
踏み込む。
「いつものやつ」
レティシアは答えない。
ただ見ている。
近すぎる。
速すぎる。
干渉する前に、
攻撃が来る。
心の奥で、
小さく思う。
(近接は…)
(解析しにくい)
その瞬間。
視界の奥が、
わずかに揺れた。