悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜は戻った。
静かな夜。
星も、
空も、
何事もなかったみたいにそこにある。
さっきまで見えていた歪みも、
ノイズも、
赤い光も、
全部消えている。
窓の前に立ったまま、
レティシアは動かなかった。
胸の鼓動だけが、
やけに大きく聞こえる。
ゆっくり目を閉じる。
そして、
もう一度開く。
同じ夜。
同じ空。
でも、
もう前と同じには見えなかった。
小さく思う。
(この世界…)
少し間を置く。
(作られてる)
空を見る。
星の配置。
雲の流れ。
風の動き。
全部が、
綺麗すぎる。
整いすぎている。
まるで、
最初から決められているみたいに。
指先がわずかに動く。
さっき、
触れそうになった。
あのルーン。
あの文字。
あの構造。
胸の奥がざわつく。
(でも…)
視線を落とす。
自分の手を見る。
細い指。
震えている。
(壊れてる)
小さく息を吐く。
空間を思い出す。
歪み。
ノイズ。
エラー表示。
世界が乱れた瞬間。
あれは幻じゃない。
確かに起きた。
確かに見た。
ゆっくり、
手を握る。
(触れる)
指先に力が入る。
(変えられる)
言葉にしない。
でも、
分かってしまう。
ルーンに触れた瞬間、
世界は動いた。
魔法じゃない。
術式じゃない。
もっと奥。
もっと下。
世界そのもの。
遠くの空を見る。
夜の端。
ほんのわずか。
星が揺れた。
一瞬だけ。
ノイズ。
黒い歪み。
すぐ消える。
でも、
もう見間違えない。
レティシアは小さく呟く。
「……何か来る」
声はほとんど出ていなかった。
その瞬間。
視界の奥に、
最後の表示が浮かぶ。
赤い文字。
SYSTEM
ゆっくり、
一行ずつ出る。
DISASTER ROUTE AVAILABLE
レティシアの瞳が揺れる。
意味が分かる。
分かってしまう。
ルート。
分岐。
選択。
物語。
世界。
全部が繋がる。
表示がノイズに崩れる。
文字が歪む。
赤い光が走る。
そして、
消える。
完全に消える。
夜だけが残る。
星だけが残る。
レティシアはしばらく動かなかった。
窓の前。
一人。
静かに立ったまま、
空を見ている。
胸の奥で、
何かが動き始めていた。
物語が、
別の方向へ進み始めていた。
――世界の秘密編、本格開始。