悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜は静かだった。
窓の外。
星空。
ルーンはまだ空の奥に浮かんでいる。
薄く、
透明に、
世界の裏側に刻まれた文字みたいに。
レティシアは動かずに見ていた。
触れなかった。
触らなかった。
それでも、
繋がっている気がする。
胸の奥がざわつく。
SYSTEM表示がまだ残っている。
ACCESS LEVEL 2
CORE LINK ESTABLISHED
赤い文字が、
ゆっくり点滅している。
そのときだった。
遠くの空。
ずっと向こう。
星の一つが、
揺れた。
レティシアの視線が止まる。
小さな光。
ただの星。
……のはずだった。
もう一度、
揺れる。
チカッ。
ノイズみたいに点滅する。
次の瞬間、
形が崩れた。
光が四角く割れる。
粒になる。
また戻る。
まるで、
画面の乱れみたいに。
レティシアの呼吸が止まる。
(……なに)
空間が歪む。
星の周りだけ、
わずかに黒くなる。
色が落ちる。
光が吸われる。
ルーンが反応した。
夜空の奥に浮かんでいた文字が、
一瞬だけ光る。
線が震える。
配置がずれる。
見たことのない動き。
その瞬間、
視界の奥に赤い表示が走る。
SYSTEM
文字が乱れる。
ERROR
一行。
ERROR
もう一行。
ERROR
さらに増える。
ERROR
ERROR
ERROR
ノイズが走る。
表示が揺れる。
今までにない乱れ方。
レティシアの心臓が強く鳴る。
次の表示が出る。
UNKNOWN SOURCE DETECTED
空の歪みが大きくなる。
星がまた揺れる。
黒いノイズが広がる。
ルーンが強く光る。
表示が続く。
RUNE REACTION
レティシアの目が見開く。
意味が分かる。
分かってしまう。
(反応してる)
ルーンが、
何かに反応している。
世界が、
何かを検知している。
遠くの空。
黒い歪みの奥で、
赤い光が一瞬だけ見えた。
ほんの一瞬。
でも確かにあった。
見てはいけない色。
見たことのない光。
レティシアの喉が乾く。
声が出ない。
胸の奥で、
言葉だけ浮かぶ。
(……来る)
表示が最後に一行出る。
SYSTEM
……
……
WARNING
すぐ消える。
空も戻る。
星も戻る。
ルーンも静かになる。
夜はまた、
何もなかったみたいに静かになる。
でも、
レティシアだけが動けない。
窓の前で立ったまま、
遠くの空を見ている。
小さく呟く。
「……何か」
息を吸う。
震える声。
「来る」