悪役令嬢は世界のバグを修正する
サロンの空気が、
少しずつ変わっていく。
最初は遠巻きだった視線が、
だんだん近づいてきていた。
隣のテーブルの令嬢が、
ちらりとこちらを見る。
その隣も、
そのまた隣も、
会話をしながら視線だけ向けてくる。
中心にいるのは、
レティシアだった。
噂の中心。
満点優勝。
構造干渉。
研究所注目。
王宮注視。
全部の話題が、
ここに集まっている。
一人の令嬢が、
意を決したように立ち上がった。
ゆっくり近づいてくる。
周囲の視線が集まる。
セシリアが気付くが、
止めない。
その令嬢は、
上品な笑顔を作って言った。
「レティシア様、でしたわね」
レティシアが顔を向ける。
「はい」
短い返事。
令嬢は少し間を置いてから聞く。
「大会で満点だったと聞きましたわ」
レティシアは頷く。
「うん」
あまりにあっさりしていて、
周囲の空気が少し揺れる。
別の令嬢も近づいてくる。
「本当に満点なの?」
「記録更新って…」
さらに一人。
「魔法を干渉したって本当?」
「火炎魔法を消したって」
「結界も変えたとか…」
質問が増える。
レティシアは順番に答える。
「満点だった」
「干渉した」
「消えた」
全部淡々。
自慢もしない。
否定もしない。
ただ事実だけ言う。
それが余計に目立つ。
周囲の令嬢たちの表情が、
少しずつ変わる。
笑顔のまま、
目だけが冷たくなる。
別の令嬢が聞く。
「婚約は決まっているの?」
空気が少し張る。
また一人。
「王家が動くって聞いたけど」
「本当なの?」
「王族に入るの?」
「騎士団に入るの?」
「魔導院?」
質問が重なる。
レティシアは少しだけ考える。
そして答える。
「決まってない」
それだけ。
余計なことは言わない。
でも、
その一言で空気が変わった。
令嬢たちの視線が、
さらに鋭くなる。
誰かが小声で言う。
「まだ決まってないの?」
別の声。
「じゃあこれから…?」
「王家に入るかもしれないってこと?」
「危なくない?」
「強すぎるのよ」
「しかも派閥にいないし…」
ひそひそ声が広がる。
セシリアが横で小さく息を吐く。
レティシアは何も言わない。
紅茶を持つ。
一口飲む。
普通の味。
でも、
空気が重い。
胸の奥が少しざわつく。
その瞬間。
視界の端が赤く揺れた。
一瞬だけ。
文字が浮かぶ。
SYSTEM
次の行。
EMOTION SHIFT DETECTED
さらに一瞬。
JEALOUSY GENERATED
すぐ消える。
誰も気づかない。
レティシアの手だけが、
少し止まる。
心の中で思う。
(……増えた)
少し間。
(敵)
顔を上げる。
周囲を見る。
さっきより、
笑顔が多い。
でも、
温度がない。
小さく呟く。
「……イベント」
誰にも聞こえなかった。