悪役令嬢は世界のバグを修正する
サロンの中央の席。
レティシアは静かに紅茶を置いた。
視線を少しだけ動かす。
広い室内。
丸いテーブルがいくつも並び、
令嬢たちがそれぞれ集まっている。
だが、
よく見ると偏りがあった。
同じ顔ぶれが固まっている。
距離がある場所もある。
近づかない席もある。
偶然ではない。
配置されているみたいだった。
レティシアが小さく言う。
「……分かれてる」
セシリアが頷く。
「ええ」
声は小さいまま。
笑顔は崩さない。
「派閥よ」
レティシアの視線が動く。
「派閥」
セシリアはさりげなく視線で示す。
「あそこ」
窓側の一番奥。
一番豪華な席。
装飾も多い。
座っている令嬢たちの姿勢も違う。
気品がある。
周囲も少し距離を取っている。
セシリアが言う。
「王家派」
一拍。
「王女様を中心にしたグループ」
レティシアが見る。
「強い?」
セシリアが笑う。
「一番上」
次に、
入口に近い席を示す。
姿勢のいい令嬢たち。
動きが無駄なく、
声も落ち着いている。
セシリアが続ける。
「騎士派」
「武門貴族」
「軍系の家」
レティシアが少し見る。
「硬い」
セシリアが小さく笑う。
「正解」
今度は別の席。
本を持っている令嬢。
魔導具を身につけている者もいる。
会話も専門的。
セシリアが言う。
「魔法派」
「魔導院系」
「研究家系」
レティシアの目が少し止まる。
「似てる」
セシリアが首を傾ける。
「何が?」
レティシアは首を振る。
「なんでもない」
さらに別の席。
年上が多い。
衣装が古風。
装飾は控えめ。
でも格が高い。
セシリアが言う。
「古貴族派」
「血統重視」
「昔からの家」
少し離れた席。
派手な服。
新しい紋章。
勢いがある。
セシリアが続ける。
「新貴族派」
「最近上がった家」
「金はある」
「でも歴史は浅い」
レティシアはゆっくり周囲を見る。
確かに違う。
座る場所が違う。
話す相手が違う。
距離が違う。
空気も違う。
全部、
最初から決まっているみたいだった。
小さく言う。
「……配置されてる」
セシリアが少しだけ驚く。
「よく分かるわね」
レティシアは答えない。
視線を戻す。
自分の席。
中央。
どの派閥にも入っていない。
誰の隣でもない。
線が繋がっていない場所。
空白みたいな位置。
レティシアが聞く。
「私は」
セシリアが少し黙る。
それから、
小さく息を吐く。
「どこにもいない」
レティシアの目が止まる。
セシリアが続ける。
「王家派じゃない」
「騎士派でもない」
「魔法派でもない」
「古貴族でもない」
「新貴族でもない」
テーブルの中央を指で軽く叩く。
「ここ」
一拍。
「孤立位置」
レティシアが言う。
「だめ?」
セシリアは苦笑する。
「一番危ない」
少しだけ声を落とす。
「派閥に入らない令嬢はね」
一拍。
「全員から見られる」
もう一拍。
「全員から狙われる」
サロンのざわめきが遠く感じる。
レティシアは周囲を見る。
視線。
距離。
沈黙。
全部、
意味がある気がする。
胸の奥が少しだけざわつく。
小さく心の中で呟く。
(孤立…)
少し間。
(フラグ…)
視界の端が一瞬揺れる。
でも表示は出ない。
ただ、
分かる。
(排除ルート…来る)