悪役令嬢は世界のバグを修正する
サロンの中央。
丸いテーブルの上に、
紅茶と小さな菓子が並んでいる。
優雅な空間。
笑い声。
静かな音楽。
見た目だけなら、
ただの令嬢の集まりだった。
けれど、
レティシアはカップを持ったまま、
少しだけ周囲を見ていた。
視線が多い。
直接ではない。
でも確実に見られている。
話し声も、
さっきより小さい。
自然にしているのに、
どこか不自然だった。
セシリアが隣で紅茶を飲む。
そして、
口元を隠すようにして小さく言った。
「ここね」
レティシアが少しだけ顔を向ける。
「なに」
セシリアは笑顔のまま、
声だけ落とす。
「戦場よ」
レティシアの目がわずかに動く。
「戦場」
セシリアは視線を周囲に流す。
令嬢たちの席。
距離。
並び。
誰が誰と話しているか。
全部を見てから言う。
「ここは令嬢サロン」
一拍。
「つまり」
「派閥確認の場所」
レティシアが聞く。
「確認」
セシリアが頷く。
「誰がどこにいるか」
「誰が誰と組んでるか」
「誰が上で」
「誰が下か」
カップを置く。
音が小さく響く。
「全部見られてる」
レティシアは周囲を見る。
確かに、
席の配置が偏っている。
同じ家系同士。
同じ派閥同士。
距離がある場所。
近い場所。
偶然じゃない。
配置されてるみたいだった。
レティシアが小さく言う。
「……大会みたい」
セシリアが少し笑う。
「そうよ」
迷いなく答える。
「大会と同じ」
少しだけ前に身を乗り出す。
「ここで順位が決まる」
レティシアの目が止まる。
「順位」
セシリアが指でテーブルを軽く叩く。
「誰が強いか」
「誰が価値あるか」
「誰が上に行くか」
「誰が落ちるか」
一拍。
「ランキングよ」
レティシアの視界が、
ほんの少しだけ揺れた。
ランキング。
順位。
評価。
構造。
全部、
どこかで見た感じがする。
頭の奥がざわつく。
その瞬間。
視界の端に、
赤い線が一瞬走った。
表示は出ない。
でも、
出そうな感覚だけ残る。
レティシアは小さく呟く。
「……順位」
セシリアが横目で見る。
「怖い?」
レティシアは少し考える。
そして答える。
「怖くない」
少し間。
「分かる」
セシリアが少しだけ驚く。
「分かるの?」
レティシアはサロン全体を見る。
令嬢たち。
席。
派閥。
距離。
全部が、
図みたいに見える。
小さく言う。
「構造…みたい」
セシリアは意味が分からない顔をする。
「何それ」
レティシアは首を振る。
「なんでもない」
でも、
心の中でははっきりしていた。
(これも…)
少し間。
(イベント)
カップの中の紅茶が、
ほんの一瞬だけ揺れた気がした。