悪役令嬢は世界のバグを修正する
サロンの中央。
丸いテーブルの一つに、
レティシアとセシリアが座る。
銀のティーカップ。
整えられた菓子。
香りのいい紅茶。
見た目は、
ただの優雅な令嬢の集まりだった。
だが、
空気が違う。
レティシアが座った瞬間、
周囲の会話がわずかに止まった。
完全な沈黙ではない。
けれど、
流れが変わる。
視線が動く。
令嬢たちが、
自然なふりをして見ている。
正面から見る者。
扇子越しに見る者。
横目で観察する者。
興味。
警戒。
敵意。
全部混ざっている。
一つ隣のテーブル。
小さな声。
「……あの子?」
「そうよ」
「レティシア・アルヴェルン」
別の声。
「思ったより普通ね」
「もっと怖い人かと」
「無表情だけど…」
「でも干渉したって聞いたわ」
さらに別の席。
「研究所が調べてるって」
「騎士団も見てるらしい」
「王家も動くとか」
「関わらない方がいいわ」
ひそひそ声が、
波みたいに広がる。
全部聞こえるわけじゃない。
でも、
空気で分かる。
評価されている。
測られている。
値段を付けられているみたいに。
レティシアは紅茶を持つ。
ゆっくり口をつける。
味は普通。
何も変わらない。
視線だけが重い。
セシリアが小声で言う。
「気にしないで」
レティシアが答える。
「気にしてない」
本当だった。
怖くはない。
嫌でもない。
ただ、
違和感がある。
まるで、
試験を受けてるみたい。
少しだけ目を伏せる。
その瞬間。
視界の端が揺れた。
赤いノイズ。
一瞬だけ。
文字が出る。
SYSTEM
次の行。
STATUS CHECK
レティシアの瞳が止まる。
呼吸がわずかに浅くなる。
すぐ消える。
誰も気づかない。
サロンは普通に続いている。
笑い声。
紅茶の音。
扇子の音。
全部いつも通り。
でも、
レティシアの胸の奥だけが、
少し冷えていた。
心の中で思う。
(やっぱり…)
少し間。
(評価されてる)
もう一度周囲を見る。
令嬢たち。
席の位置。
距離。
視線。
全部、
配置みたいに見える。
小さく、
誰にも聞こえない声で呟く。
「……イベント」