悪役令嬢は世界のバグを修正する
サロンの奥。
王家派の席に座ったエレノアは、
ゆっくりとカップを持ち上げた。
動作は静か。
無駄がない。
それだけで、
周囲の令嬢たちの姿勢が少し正される。
誰も命令していないのに、
空気が整う。
エレノアは一口だけ紅茶を飲む。
そして、
何気ない動きで視線を動かした。
サロン全体を見る。
一瞬だけ。
だが、
その視線は鋭かった。
席の配置。
派閥。
距離。
誰がどこにいるか。
全部を確認するみたいに。
王家派。
騎士派。
魔法派。
古貴族派。
新貴族派。
順番に視線が流れる。
そして、
止まった。
中央の席。
どこにも属していない場所。
レティシア。
ほんの一瞬だけ、
目が合った。
レティシアは動かない。
視線も逸らさない。
ただ見ている。
エレノアの目が、
わずかに細くなる。
次の瞬間には、
いつもの笑顔に戻っていた。
周囲には分からない。
でも、
近くにいた令嬢だけが気づく。
空気が少し変わった。
エレノアはカップを置く。
静かに立ち上がる。
それだけで、
周囲の令嬢たちが緊張する。
誰かが小声で言う。
「動いた…」
別の声。
「誰のところへ?」
視線が一斉に集まる。
エレノアは歩き出す。
迷わない。
一直線。
中央の席へ。
レティシアの方へ。
途中で、
騎士派の令嬢が少しだけ道を空ける。
魔法派も視線を向ける。
古貴族派が会話を止める。
新貴族派が息をのむ。
派閥全体が、
同時に反応した。
セシリアが小声で言う。
「……来るわね」
レティシアは答えない。
ただ見ている。
歩いてくる。
ゆっくり。
まっすぐ。
逃げ場がない感じがする。
エレノアはレティシアの前で止まる。
距離は一歩分。
近すぎず、
遠すぎず。
完璧な距離。
微笑む。
美しい笑顔。
でも、
目は笑っていない。
レティシアを上から下まで見る。
一瞬で。
服。
姿勢。
表情。
気配。
全部を測るみたいに。
そして、
ほんの少しだけ首を傾けた。
評価が終わった顔。
その瞬間。
サロンの空気が固まる。
誰も話さない。
誰も動かない。
全員見ている。
派閥も。
令嬢も。
侍女も。
セシリアも。
レティシアの胸の奥が、
わずかにざわつく。
視界の端が揺れる。
赤い光。
一瞬だけ。
SYSTEM
次の行。
RIVAL ANALYSIS START
さらに一瞬。
CONFLICT PROBABILITY ↑
すぐ消える。
レティシアは小さく息を吐く。
心の中で思う。
(始まる)
少し間。
(対立イベント)