悪役令嬢は世界のバグを修正する
庭園の中央。
白いテーブルの並ぶ空間に、
令嬢たちがゆっくり集まり始めていた。
会話は穏やか。
笑顔も多い。
だが、
視線だけは鋭い。
レティシアとセシリアが歩くだけで、
周囲の空気がわずかに動く。
誰も露骨には見ない。
けれど、
確実に見られている。
服。
姿勢。
歩き方。
全部。
近くの令嬢が、
扇子で口元を隠しながら小声で言う。
「……あの方が」
別の令嬢が頷く。
「レティシア様ね」
さらに一人。
「優勝者の」
視線が下に落ちる。
ドレスを見る。
色。
布。
装飾。
刺繍。
靴。
細かい所まで。
完全にチェックされていた。
セシリアは気付いている。
でも顔色を変えない。
むしろ、
堂々と歩く。
今日のドレスは深い青。
流行の形。
王都の最新仕立て。
装飾も完璧。
近くの令嬢が小さく言う。
「さすがセシリア様」
「完璧ね」
「隙がないわ」
評価が上がる空気。
自然に距離が近くなる。
視線が柔らかい。
次に、
レティシアを見る。
淡い色のドレス。
上品。
丁寧な仕立て。
問題はない。
むしろ良い。
だが、
一瞬の沈黙があった。
誰かが小さく言う。
「……あれ」
別の令嬢が目を細める。
「刺繍」
「少し前の型じゃない?」
「今年の流行と違うわ」
さらに一人。
「装飾が少ないわね」
「控えめすぎるかも」
「地味…?」
「優勝者にしては」
声は小さい。
でも、
確実に広がる。
評価が、
少しだけ下がる。
レティシアは気付かない。
ただ歩いている。
でも、
空気が変わったのは分かる。
さっきより、
視線が冷たい。
セシリアが小声で言う。
「……見てるわね」
レティシアが答える。
「うん」
少し間。
「服」
セシリアが苦笑する。
「そう」
「ここはね」
小さく続ける。
「装備チェックなの」
レティシアが止まる。
「装備」
セシリアは前を見たまま言う。
「ドレス」
「宝石」
「仕立て」
「流行」
「家格」
一拍。
「全部ステータス」
レティシアの視界が、
ほんの少し揺れた。
その瞬間。
赤い表示が出る。
SYSTEM
次の行。
EQUIPMENT STATUS CHECK
さらに一瞬。
SOCIAL VALUE ↓
消える。
レティシアの足がわずかに止まる。
心の中で思う。
(下がった)
少し間。
(装備不足…)
周囲の令嬢たちが、
またヒソヒソ話している。
「悪くはないけど…」
「地味よね」
「強そうには見えない」
「大会とは違うわ」
レティシアは空を見る。
青空。
何も変わらない。
でも、
胸の奥が少しだけ重い。
小さく呟く。
「……ここも」
少し間。
「ステータス戦」